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ひと言小説「誰も知らない家」

「古びた肖像画」

🏡 錆びついた門扉を押し開けた瞬間、ひんやりとした空気が肌を刺した。

友人から聞いた地図に載っていない家。
それが気になって仕方がなく、好奇心に駆られてここまで来た。
門を抜けると、蔦に覆われた洋館が姿を現す。
壁の隙間から差し込む陽光が、埃の舞う玄関ホールをほのかに照らしていた。

🎨 静寂の中、私は足を踏み入れる。
廊下を進むと、ふと一枚の肖像画が目に入った。
それは19世紀風の服を着た女性の絵。
しかし、その顔を見た瞬間、全身が凍りついた。

それは私自身だった。

👩‍🦱 私と瓜二つのその女性は、柔らかな微笑みを浮かべ、視線はまっすぐこちらを見据えている。

「冗談だろう?」 思わず声が漏れる。
手が勝手に伸び、額縁に触れると、冷たい感触が指先に伝わった。
その瞬間、背後で小さな音がした。

振り返ると、そこには誰もいない。

🔑 床に目をやると、古びた鍵が落ちていた。
どうして気づかなかったのか不思議だが、それはまるで私を導くように光を反射している。

鍵を拾い、もう一度肖像画に目を戻す。
すると、さっきまで穏やかだったその女性の微笑みが、どこか悲しげに変わっていることに気づいた。

🏚️ 不気味さを振り払うように、家を飛び出す。
振り返ると、いつの間にか門扉は錆びた鎖で固く閉ざされていた。
そしてあの肖像画の女性が窓からこちらを見下ろしているような錯覚を覚えた。
地図に載っていないこの家。
もう二度と足を踏み入れることはないだろう。

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