
「帰らぬ主」
🌳 公園のベンチに座った僕は、足元に目をやった。
そこで目に入ったのは、一足の古びた白いスニーカーだった。
左右揃えて置かれているが、どこか寂しげな雰囲気を纏っている。
「誰かの忘れ物だろうか…?」
👟 手に取ってみると、意外にも軽かった。
サイズは女性用だろう。
雨上がりの湿った空気が靴底にしみ込み、小さな泥の跡が残っている。
すると、背後から声がかかった。
「あの、それ…私のです。」
👩🦰 振り返ると、20代くらいの女性が立っていた。
黒いコートに包まれた彼女は、どこか影を落とした表情をしている。
「これですか?」と靴を差し出すと、彼女は少しだけ微笑んだ。
「はい、それは彼の大切なものなんです。そのままにしておいてもらえますか?」
彼? 疑問に思ったが、彼女の顔には何か事情を察してほしいという静かな圧力があった。
🌼 そのまま靴をベンチに戻し、彼女は一礼して去っていった。
見送る僕の視線の先で、彼女の足元には同じ白いスニーカーが揃っていた。
気づけば、ベンチの靴は片方だけになっていた。
もう片方はどこへ行ったのか。
不思議な余韻を残しながら、公園には再び静けさが戻った。
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