
「別の手」
壁に映る影絵が好きだった。🖤
子供の頃、手を使って鳥や犬、蝶を作り出す遊びに夢中になった記憶がある。
暗闇に懐中電灯を向けるだけで、世界が広がるような気がしたのだ。
大人になった今も、時々思い出して試すことがある。
その夜も、ふと懐中電灯を手に取り、部屋の壁に向かって影絵を作り始めた。
最初は鳥。手を広げて翼を模してみる。
次は犬。指を曲げて口を作る。
どちらも子供の頃と同じように映ったので、少し安心した。
昔と変わらない自分がそこにいるような気がして。
次に蝶を試した。その瞬間だった。
壁に映った影が、私の動きと違う形を作り始めたのだ。
手は確かに蝶の形をしている。
それなのに、壁に映る影は人の手を握る動きを繰り返していた。🫣
目を凝らして確認する。
私の手の形は変わらない。
それなのに、影はまるで別の誰かがそこにいるかのようだった。
恐怖を感じ、懐中電灯を消した。
部屋が真っ暗になると、背後で微かな気配を感じたような気がした。
振り返っても、誰もいない。
再び懐中電灯をつけると、壁には何も映っていなかった。
しかし、その日以来、懐中電灯を使うことができなくなった。
影が再び動き出す気がして。
あの夜、影は誰のものだったのだろう。
私はそれを考えるたび、身震いするのだ。
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