
「時の囁き」
壊れた時計は、祖母の形見だった。⏰
動かなくなってから数年、棚の隅に眠っていたそれを、ある日ふと思い立って修理に出すことにした。
古びた時計店の主人は、白髪混じりの髭を撫でながら時計をじっと見つめ、
「時間が止まったのは何時でしたか?」と尋ねてきた。
「午前10時15分です。」
そう答えると、彼は小さく頷き、慎重に時計を引き取った。
一週間後、修理が完了したとの連絡があり、店を訪れると、
動き始めた時計と共に、小さな封筒が手渡された。
封筒の中には短いメモが一枚だけ。
「止まった時間が、あなたの運命を語る。」
不可解な言葉に眉をひそめながらも、家に帰り、時計を手にしていると、不思議な感覚に襲われた。
ふと、10時15分という時刻に何か特別な意味があるのではないかと思い立ち、記憶を辿る。
それは10年前、祖母が亡くなったまさにその時刻だった。
祖母は最期の瞬間、私の手を握りながら、「あなたにはきっと素敵な未来が待っている」と微笑んでいたことを思い出す。🌸
時計が止まったのは、その瞬間からだったのだ。
再び動き始めた時計を見つめながら、私は祖母の言葉の意味を考えた。
「運命」とは、決して過去に縛られるものではなく、未来への指針なのかもしれない。
その日以来、時計の針は止まることなく進み続けている。
私の新しい一歩を刻むように。
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