
「角で始まる恋」
角を曲がるたびに、同じ人とぶつかる。
最初は偶然だと思った。
黒縁眼鏡の青年が慌てて頭を下げる姿に、こちらもつい笑顔で「すみません」と返す。
その次の日も、そのまた次の日も、同じ角でぶつかるのだ。
「どうしてこんなにタイミングが合うのだろう?」と不思議に思いながらも、どこか楽しくなっていた。
ある日、彼はぶつかった衝撃で手に持っていた紙袋を落とした。
拾おうとした私の手の甲に、彼の指先が触れる。
一瞬、時間が止まったように感じた。
その日、私は思い切って尋ねてみた。
「よくここでお会いしますね。🌸」
彼は少し戸惑いながらも、「そうですね。でも、偶然だと思いますよ」と笑った。
その翌日、また同じ角でぶつかると、彼は無言で一枚の紙切れを私に差し出した。
そこには丁寧な字でこう書かれていた。
「次は避けてください。😉」
思わず吹き出しそうになるのをこらえながら顔を上げると、彼は耳まで赤くしながらも微笑んでいた。
それが私たちの初めての会話だった。
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