
笑顔の裏に挑発あり🎀
「先輩〜今日もわたし、世界一かわいくないですか?」
いつもの放課後、教室に残っていた僕の後ろから、その声が飛んできた。
制服のリボンをちょっとだけ斜めに整え、指でピースサインを額に乗せた彼女は、笑顔全開だった。
「うるさい。宿題やってるから静かにしてくれ」
そう言っても、彼女はどこ吹く風。
「え〜そんなこと言って、本当は私のこと可愛いって思ってるくせに〜💕」
言葉と共に机に乗り出してくる勢い。
僕の心拍数も、静かな放課後に反して上昇中だ。
正直、最初は気にならなかった。
ただのかまって系の後輩だと思っていた。
だけど、毎日同じテンションで現れて、いちいち反応を求めてくるその姿に、いつしか僕の心はザワつき始めた。
「ねえ先輩、今日の髪型、どう思います?似合ってますよね?ねっ?」
「いや、知らん」
「えーっ!そこは“かわいい”って言ってくださいよ〜」
そのやりとりが定番になってから、僕の友人たちの視線も変わった。
「また来てるぞ、“うざかわちゃん”」
「お前、よく耐えられるな」
そんな言葉にも慣れた頃、ふと気づいた。
──なぜ、僕はこの毎日を、
断ち切ろうとしないのか。
翌週の金曜日。
彼女はまたいつものようにやって来た。
でも今日は少し違った。
「今日の私は、ちょっとおとなしめで行きます!」
そう言ってお辞儀をしながら、ちゃっかり僕の机の前に座る。
「……それでも十分うるさい」
「えっ、それってつまり……“今日は静かでも私かわいい”ってことですか?!」
──勝手に勝利宣言すんな。
「……先輩?」
「……まあ、いいんじゃないか。かわいい、よ」
言った瞬間、彼女の動きが止まった。
でもすぐに笑顔が爆発したように広がった。
「きゃー!録音すればよかったぁ!📱」
……放課後の戦争は、いつもこんな風に幕を閉じる。
たぶん、明日もまた彼女は笑顔で現れるだろう。
でも、その“うざさ”が。
少しずつ僕の生活に、必要になってきているのかもしれない。
放課後、誰もいなくなった教室。
彼女がふいに窓際に立ち、夕陽を背に振り返った。
「先輩、今日も楽しかったです」
その一言に、不意を突かれたように胸がチクリとする。
騒がしいだけじゃない、彼女のそんな一面を見てしまったせいかもしれない。
「……また明日な」
僕がそう返すと、彼女はにんまり笑って小さく敬礼をした。
次の放課後が、ちょっとだけ楽しみになった。
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