
昇進より“映え”重視!?
「来期の昇進は“投票制”にします」
部長の唐突な発表に、オフィスが凍りついた。
何の冗談かと思えば、すでに壁には“候補者ポスター掲示板”が設置されている。
「それぞれ、自分を売り込むポスターを作成するように」
そう告げられた瞬間、静かだった社内はザワつき始めた。
庶務の斉藤は一眼レフを手に自撮りを開始し、営業の鈴木は「コピー機改革派!」と派手なスローガンを掲げたポスターを印刷中。
そんな中、一番張り切っていたのが田中だった。
自信満々の笑顔に「部長候補・田中」と書かれたポスターを両手に、彼は壁のベストポジションを確保。
ライバルのポスターの上にガムテープで自分の顔を被せるという、姑息な“政治手腕”を披露していた。
「これが本当の“顔で勝負”ってやつだな」
田中は笑いながらピースサインを決めた。
床には剥がされたポスターが散乱し、選挙というより“掲示板戦争”の様相を呈していた。
やがて、ポスター掲示板はカオスと化した。
「総務主義 山田」「願設役 吉田」などの肩書が並び、地味な庶務課も突然の脚光を浴びる。
社員たちはポスター映えするために笑顔を練習し、背景に観葉植物を配置する“演出”まで始めた。
しかし投票日、予想外の展開が起きた。
無記名で行われた投票の結果、なんと一票も得票しなかったのが――田中だった。
「え、俺、ポスター10枚貼ったよ!?」
叫ぶ田中に、庶務の斉藤が静かに言った。
「田中さん、顔はいいけど、根回ししてないですよね」
選挙は顔じゃない、信頼の蓄積だ。
その言葉に周囲がうなずき、田中は言葉を失った。
翌日、掲示板のポスターはすべて剥がされ、誰かがそっと小さな紙を貼っていた。
そこにはこう書かれていた。
「ポスターより、日々の仕事」
その言葉を見つめながら、田中はしばらく立ち尽くしていた。
やがて静かにその場を離れると、誰にも見られないようにコピー室の整理を始めた。
彼の背中はまだ小さかったが、そこには確かに“リーダー”としてのはじまりが宿っていた。📎✨
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