
出社スタイルがケージ⁉️
「え?この中に入って出勤するんですか?」
新入社員のカズマが戸惑いながら黒いケージに足を踏み入れると、先輩たちは無言で頷いた。
彼の目の前には、謎の“豚の鼻”がついた小さな扉。
「これは我が社の“精神と時の部屋”だよ」
そう言ったのは、部長代理のオカダだった。
冗談だと思いたかった。
でも、オカダの目は笑っていない。
「これに入るとね、不思議と時間の感覚がなくなるの」
先輩のユリは言った。
「だって、出る時間が決まってないから」
笑えない。
というか、社内に笑い声自体が存在しない。
毎朝、社員たちはスーツ姿で黒いケージに入り、「ブヒ」と挨拶しながら出勤。
どうやら“社畜”の名は伊達じゃないらしい。
「この豚鼻……誰がつけたんですか?」
カズマの素朴な疑問に、係長のミカミが答えた。
「これはね、“自分が何者か忘れないため”のシンボルだよ」
「社畜の証だ」
……深い。いや、深すぎて底が見えない。
「でも、誰も疑問に思わないんですか?」
そうカズマが続けると、ユリが少しだけ微笑んだ。
「思っても、口に出すとね……ケージが小さくなるのよ」
本当に?
いや、多分冗談ではない。
ある日、いつものようにケージに入ろうとしたカズマは、床に落ちているメモに気づいた。
『この檻から出たいなら、まず声を出せ』
それは、かつていた先輩の残した遺言のようなものだった。
その夜、いつもの無表情な会議の中で、カズマはゆっくりと手を挙げた。
「すみません……定時って、まだ存在してますか?」
その場が一瞬凍りついた。
しかし次の瞬間、誰かが小さく拍手した。
続いてもう一人。
やがて、社内に静かな波紋が広がった。
翌週。
社内に新制度が導入された。
「ケージ出勤は任意とする」
カズマは鼻のパーツを静かに外し、深く息を吸い込んだ。
「……空気って、自由だなぁ」
そのとき、隣のデスクの上に新しいメモが置かれていた。
『次は、椅子にクッションを……』
静かな反乱は、ふわふわと始まっていた——🐷✨
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