
掃除機と謎の男
「お母さん、掃除機どこいったの?」
日曜の午後、ミユは自室の掃除を始めようとしていた。
けれど、いつもリビングの隅に置いてある掃除機が、忽然と姿を消していた。
仕方なくベランダの物置を開けると、そこには信じがたい光景があった。
青いシャツに黒いマント、そして……掃除機を肩にかけ、空を見上げる男。🌀
「誰⁉️」
驚くミユに、男は振り返ってウインクした。
「スーパーマンです」
……掃除機、持ってるじゃん。
しかもマント、それ掃除機のホースじゃん。
「掃除機を探してるあなたの“強い思い”に反応して、やってきました」
そう言って、男は姿勢を正した。
「私は“吸うパーマン”」
ミユは言葉を失った。
「願いを吸い取って、叶えるヒーローなんです」
「……それ、フィルターに詰まらない?」
「たまに詰まります」
なぜか憎めない彼に、ミユはつい笑ってしまった。
「じゃあお願い。部屋、全部吸い取って」
彼は力強くうなずき、掃除機のスイッチを入れた。
ブオォォン……
あっという間にホコリが消えていく。
でもそれ以上に、彼の言動がミユの心をくすぐっていた。
「ありがとう、スーパーマン」
「いえ、“吸うパーマン”です」
訂正いらない。
その後も彼は真剣に、けれどどこか抜けた様子で掃除を続けた。
吸っては笑い、詰まっては謝る。
「ちょっとドジなヒーローって、案外いいかも」
ミユは心の中でそう思った。
掃除が終わると、彼は礼儀正しくお辞儀をした。
「では次の“願い”の元へ」
「え、もう行っちゃうの?」
彼はほほ笑んで言った。
「吸い残しがある限り、私は現れます」✨
そして彼は、空に向かってポーズを取り、掃除機を肩に担いで走り去っていった。
翌日、掃除機はいつもの場所に戻っていた。
でもホースには、こっそり黒い布が巻かれていた。
スーパーマン。
それは、ちょっと変だけど心を掃除してくれた、吸引力のある奇跡の物語だった。🧹
――今日もミユは、掃除機の音を聞くたびに、空を見上げてしまう。
また、彼に“吸われたい”と思いながら。
コメント