
頑張らないフリの才能
何もしていないのに、なぜか疲れていない人がいる。
頑張っていないように見えるのに、なぜか崩れない人がいる。
その正体は、森のはずれに住む一匹のナマケモノだった。
森のはずれに、ナマケモノが住んでいた。
名前は特にない。
なぜなら、名乗るほどのことをしていないと思われているからだ。
朝、ナマケモノは枝にぶら下がったまま動かない。
昼も同じ姿勢だ。
夕方になっても、やはり動かない。
通りかかった動物たちは口をそろえて言う。
「ああ、今日も何もしていないな」。
しかし、その認識はだいたい間違っている。
ナマケモノは、何もしないために全力を尽くしているのだ。
たとえば、あの絶妙な位置取り。
日差しが強すぎず、風が直撃せず、鳥の影にも入らない枝を選ぶまでに、実は相当な時間を使っている。
一歩でもずれれば、午後の快適さが崩れる。
だから朝のうちに、頭の中で何十通りも想定を終えている。
ただし、それを誰にも言わない。
言ってしまうと「努力している」ことが露呈してしまうからだ。
ナマケモノは知っている。
世の中には「頑張っているように見える努力」と「頑張っていないように見せる努力」があることを。
前者は拍手されやすく、後者は誤解されやすい。
それでもナマケモノは後者を選ぶ。
同じ森には、忙しそうな動物がたくさんいる。
リスは走り回り、数字のようなどんぐりを集め続けている。
その姿は、どこかで聞いた経済の話に似ている。
かつて流行った「働きすぎの仕組み」は、ネコノミクス再建計画とゆるい国の働き方改革でも語られていた。
ナマケモノは、その話を思い出しながら、さらに動かないことを決意する。
ある日、ハムスターが近づいてきた。
最近は走り車を回すたびに、誰かに見られている気がするらしい。
「いいね」が減ると、不安で眠れないとも言っていた。
その様子は、ハムスタグラム疲れ いいねに追われた日々とそっくりだった。
ナマケモノは、何も助言しなかった。
ただ、枝にぶら下がったまま静かにしていた。
それが答えだと分かっているからだ。
ナマケモノは、疲れないために頑張る。
動かなくていい状況を作るために、先に頭を使う。
比べない。
急がない。
目立たない。
今日もまた、何もしていないように見える一日が終わる。
褒められもしないし、期待もされない。
それでもナマケモノは満足している。
見えない努力で、自分を守れたからだ。
―――
もし、
この話が少しだけ自分のことのように感じたなら、
ここから先も読んでみてください。
見えない努力は、評価されにくい。
でも、評価されないからこそ守れるものもある。
ナマケモノが選んだ「動かない」という戦略は、
忙しさに飲み込まれがちな私たち自身の話でもあります。
・頑張っているのに報われないと感じている
・何もしないことに罪悪感がある
・静かに距離を取りたいと思っている
そんな気持ちが少しでもあれば、
同じテーマを別の動物たちの視点で描いた物語も、
きっとどこかで引っかかるはずです。
下にまとめた作品は、
「働きすぎない」「急がない」「比べない」を
それぞれ違う角度から描いています。
気になったものから、ぜひ読んでみてください。
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