チャペルで恋の三角
晴れ渡る初夏の空の下、都内の小さなチャペルで、樹、灯、奏の三人は同じ純白のベールを頭にのせ、肩を寄せ合っていた。
ウェディングカメラマンは不思議そうにシャッターを切る。「新郎新婦……おっと、新郎新婦新婦？」と首をかしげる。
樹は笑って手を振った。「説明すると長いんですけど、今日から俺たち“三人夫婦”なんです」😊
灯が頬を染め、「戸籍はまだ友達だけど、心はもう家族だから」と付け加えると、奏が「いやあくまで恋人だからね」とツッコミ、場は早くもドタバタムード。
三人の出会いは大学のアカペラサークルだった。
アルトの灯とソプラノの奏は声を重ねるたび意気投合。
そこへ新入生として現れたベースの樹が加わり、ハーモニーは三層に広がった。
練習帰りの河川敷で、ベール代わりに使ったステージカーテンに三人で潜り込んだ瞬間、灯が冗談めかして言った。
「もし音楽みたいに恋も三和音で共有できたら？」
その笑い話が、数年後まさかリアルになるとは誰も想像していなかった。
社会人になってからも三人は同居を続けた。
家賃も光熱費も三等分、家事はローテーション、ケンカになりそうな議題は必ず“定例ミーティング”で議事録を取る。
合理的と言えば合理的、しかし愛情が数字で割り切れるわけではない。
「今日のハグは誰と誰がペア？」
「いや、全員同時にぎゅっとしよう！」💞
試行錯誤の毎日に、友人たちは呆れ顔ながらも興味津々。
SNSには「羨ましい」「カオス」などさまざまなコメントが飛び交った。
そんなある夜、灯が突然の海外赴任を打診される。
三人の空気が凍る。
「離れたら、和音が濁っちゃうかな……」
奏が泣きそうに呟くと、樹はスマホのメトロノームを鳴らした。
淡々と刻む拍に合わせ、彼は言葉を置く。
「テンポが変わっても、キーが変わっても、俺たちのコード進行は途切れない。
オンラインでもハモれる時代だろ？」
灯は笑い、リュックから折り畳みベールを取り出した。
「どこにいてもこれを被れば、三人夫婦！」🎉
数週間後。
成田行きの便に乗る灯を見送り、樹と奏はベールを半分ずつ頭にかけて帰路につく。
交差点の風に布が舞い、偶然すれ違った老夫婦が微笑んだ。
「新しい家族の形かね」
「いいんじゃないかい。
愛は足し算でも割り算でもなく、掛け算だからね」
三人のベールは伸縮自在。
距離も時間も包み込み、今日もどこかで揺れている。
そして次に揃って写真を撮る日、きっとシャッター音より大きく、三人の笑い声が鳴り響くだろう。💍
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