
— 崩壊するまでがアートです —
「完璧だ……」
健太は満足げに頷いた。
海辺にそびえ立つ壮麗な砂の城。だが、それはただの砂の城ではない。彼はその基礎に、トランプの塔を使用していた。普通ならば無謀な試みだが、健太には「バランスの魔術師」としての自信があった。
「この世に存在する建造物の中で、もっとも儚く、もっとも偉大なもの。それが俺の《砂の王国》だ!」
観光客たちは目を丸くし、次々と写真を撮っていく。中には拍手をする者もいた。
「すごい!」「どうやって作ったんだ?」
健太は得意げに胸を張った。しかし、そのときだった。
「……あっ」
突風が吹いた。
砂の城が微かに揺れる。トランプの土台が、わずかに軋んだ。観光客の一人が「やばくない?」と囁く。健太の額に一筋の汗が流れた。
「だ、大丈夫だ。風の計算はしてある!」
しかし、次の瞬間——
バサァアア!
トランプの塔が崩れた。
それに伴い、砂の城も一瞬で瓦解。まるで夢が砕け散るかのように、健太の《砂の王国》は海風に舞い、消えていった。
観客は一瞬沈黙した。
そして、次の瞬間——
「ハハハハハ!」
大爆笑が巻き起こる。
「すげぇ!」「伝説の瞬間を見た!」
動画を撮っていた人々はSNSに投稿し、瞬く間に拡散されていった。
健太はしばらく呆然としていたが、やがて苦笑した。
「……まあ、これも計算のうちってことにしとくか」
彼は手をパンパンと払い、新たな砂の城を作るべくしゃがみ込んだ。
—砂上の楼閣は儚い。だが、また作ればいいのだ。
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