
白黒はっきりしない恋愛相談室
動物園の片隅にある古い東屋で、パンダのトオルはひっそりと「恋愛相談室」を開いていた。
もっとも、正式な看板があるわけではなく、竹をかじっていると自然に誰かが悩みを打ち明けに来るだけだ。
トオルとしては「のんびり竹を食べたいだけ」なのだが、どうやら彼のゆるすぎる空気が相談しやすいと評判らしい。
最近は人間の世界でも「肩書き社会」だのなんだのと大変らしく、トオルは園内の掲示板で見かけたその騒動肩書き社会!AIが考えた小説 – 名札に潰された男を思い返し、動物世界も似たようなものだなぁと竹を噛みしめていた。
ある日、最初にやってきたのはサバンナエリアのライオンのメス、リナだった。
「ねぇトオルさん。私、彼の前だとつい強がっちゃうの。本当は甘えたいのに。」
トオルはむしゃむしゃと竹を噛みながら答える。
「強いと見られるのは悪いことじゃないよ。でもね、強さの中に柔らかさがあると、相手は安心するんだ。」
リナは目を丸くした。
「柔らかさって何?」
「竹を噛むとき、全部同じ硬さじゃ飽きるでしょ。たまに柔らかい部分があるとホッとする。」
例えが雑だが、リナはなぜか納得して帰っていった。
次に来たのはアクア館所属のペンギンのジュン。
「ボク、告白しようと思ってるんです。でも返事が怖くて。」
トオルはまた竹を噛みながら言う。
「返事が怖いのは、好きだからでしょ。それはとても正直な気持ちだよ。」
ジュンは頬を赤らめながら、よちよちと去っていった。
その日の夕方、今度はキリンのハナが来た。
「わたし、遠距離恋愛なんです。会うたびに距離ができてる気がして。」
トオルは竹の節を見つめたまま答える。
「距離ができるのは当たり前だよ。でも、距離があるからこそ育つ気持ちもあるんだ。ほら、竹も乾燥してても水につければ戻るでしょ。」
言っていることは半分本当で半分どうでもいい。
だがハナは感動した顔で帰っていった。
実はトオル自身も、密かに恋をしていた。
相手は遠くの展示区に住むパンダのユキ。
ふわふわの毛並み、笑うと揺れる耳。
トオルはその度に心臓が転がるような気持ちになり、落ち着いて竹を噛めない日も増えていた。
だがトオルは「白黒はっきりしない」タイプで、自分の気持ちに踏み出す勇気が持てなかった。
そんなある日、ユキが東屋にやってきた。
「トオルくん。最近、あなたの恋愛相談室の噂をよく聞くの。私も相談に来ていい?」
トオルは竹を飲み込みかけてむせた。
「ど、どうぞ……。」
ユキはもじもじと話し始める。
「実はね……気になるパンダがいるの。でもその子、いつもゆるくて、私の気持ちに気づいてるか分からないの。」
トオルの胸がぎゅっと縮んだ。
自分のことのようで、でも確信が持てず、竹を握りしめた。
ユキは続けた。
「私、白黒はっきりさせたい性格なの。でも、そのパンダは“まぁいいんじゃない?”って感じで、心の色が読めないの。」
トオルは意を決して口を開いた。
「そ、そのパンダって……僕……?」
ユキはふわりと笑った。
「やっと気づいてくれた。そう、あなた。」
トオルの頭の中で竹が転がる音がした。
「僕は……白黒つけられないんだ。慎重すぎて。」
ユキは首を振る。
「いいの。むしろ私は、白黒はっきりさせすぎる自分を、あなたのゆるさがほどいてくれる気がして好きなの。」
その言葉は、トオルの胸にしずかに落ちた。
竹よりもずっと柔らかく、本当に温かい音がした。
その日以来、恋愛相談室には二匹のパンダが座るようになった。
トオルは柔らかさを、ユキは明るさを担当し、相談者は以前よりさらに増えた。
白黒はっきりしない恋も、白黒つけたい恋も、すべてここに集まる。
パンダたちはゆっくり竹を噛みながら言う。
「恋は白でも黒でもなく、グレーでもいいんだよ。そのほうが景色が広がるから。」
今日も相談室の前には行列ができている。
恋の色を探す動物たちに、パンダの言葉は不思議とよく効くのだった。
🐾 あわせて読みたい作品(本文と重複なし)
・猫カメラ日記 にゃんとも映える青春物語
・リス活男子のナッツな日々〜渋谷リスティック物語〜
・犬散歩シェアリング〜ワンだふる距離感の恋〜


コメント