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アップデートされない老犬と更新されすぎる人間

変わらない幸福の話

その老犬は、アップデートされなかった。
正確に言えば、アップデートを要求されなかった。
毎朝、同じ時間に起き、同じ道を散歩し、同じ場所で立ち止まる。
電柱の前で一度止まり、三歩進んでまた止まる。
昨日も一昨日も、たぶん去年も、その順番は変わらない。
それなのに老犬は、まったく困っていない顔をしている。

一方で人間は、毎日アップデートされていた。
新しい考え方。
新しい働き方。
新しい自分。
昨日まで正解だったものが、今日はもう古い。
三年前の常識は、今では「気づいていない人」扱いだ。
人間はスマートフォンを眺めながら、自分のバージョンが最新かどうかを確認する。

老犬は、スマートフォンを見ない。
通知にも反応しない。
比較もしない。
昨日の自分と今日の自分を比べることもない。
それでも老犬は、ちゃんと今日を生きている。

散歩の途中で、人間が立ち止まる。
仕事のこと。
将来のこと。
このままでいいのかという疑問。
老犬は、立ち止まった理由を深く考えない。
ただ、止まったなら一緒に止まる。

人間が再び歩き出すと、老犬も歩き出す。
早すぎず、遅すぎず。
効率は悪いが、無駄でもない。
人間はふと思う。
自分は、いつからこんなに更新に追われるようになったのだろうか。

変わらないと置いていかれる気がして、
変わり続けないと価値がなくなる気がして、
気づけば最新版の自分を維持することが目的になっていた。
似た感覚を描いた物語として、肩書き社会!AIが考えた小説 – 名札に潰された男という話を思い出す。
そこでも、人は「今の自分」ではなく「見せる自分」を更新し続けていた。

老犬は変わらない。
けれど、衰えているわけでもない。
昨日より遅くなった足取りも、
白くなった毛も、
老犬にとっては自然な更新なのだ。
誰にも見せない更新。
評価されない更新。
でも確実に生きている更新。

人間は老犬を見る。
老犬は人間を見る。
どちらも、今ここにいる。
人間は少しだけ、スマートフォンをしまう。
老犬は何も変えない。
それで、今日の散歩は終わる。

帰り道、老犬は満足そうに眠る。
人間は思う。
もしかすると、更新しすぎていたのは、自分のほうだったのかもしれない。

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