朝活でつながる友情
「おはよう!」
スマホを開くと、まだ6時台なのにグループLINEが賑わっている。
グループ名は「おはようスタンプラリー」。
友人のミキが思いついた遊びで、毎朝起きたら誰かに必ず「おはよう」のスタンプを送るルールだ。
最初は正直、面倒だった。
夜型人間の僕にとって、朝の「おはよう」はただの苦行。
けれど、いつの間にか毎朝の小さな習慣になっていた。
「今日の一番乗りはユウト!」
「また寝坊したー、私アウト!」
「犬の散歩行ってきたよ🐶」
文字だけじゃなく、みんなが使うスタンプにも個性がある。
猫の伸びをするスタンプで毎回参加するサキ。
なぜか毎回、唐突に「餃子🥟」スタンプを押すカズ。
眠そうなゾウのスタンプを使い続けているタケ。
「ねえ、なんでタケは毎回ゾウなの?」と聞いたら、
「ゾウ=おはようっていうダジャレだよ」
と平然と答えられて、全員が「……」と固まった。
でも、不思議とそれで盛り上がった。
ある日、僕はふと思いついて「今日の朝ごはんはパンケーキだよ🥞」とスタンプの後に写真を送ってみた。
すると、ミキが「えっ美味しそう!私もやろうかな」
サキが「私はおにぎり🍙」
カズが「昨日の餃子の残り🥟」
と続き、気づけば朝ごはん共有会になっていた。
「なんかさ、私たちの朝って前より明るくなったよね」
「うん。スタンプラリーっていうより、日記ラリーになってきた」
笑いながらも、みんな続けていた。
しかし、問題はタケだった。
ある日突然、既読はつくのにスタンプが来なくなったのだ。
「タケ、寝坊?」
「体調悪いのかな」
心配になった僕は放課後、彼の家に寄ってみた。
するとタケはベッドの上で半分寝ながらスマホを握りしめていた。
「お前……起きてんじゃん」
「……スタンプ押すの、なんか重荷になってきた」
その言葉を聞いて僕は驚いた。
毎日「おはよう」って押すだけなのに、重荷?
「だってさ、俺だけゾウのスタンプしか持ってないから」
「えっ」
「みんな可愛いの持ってるのに、俺のだけダジャレ。正直、ちょっと恥ずかしくなったんだ」
あのゾウにそんな背景があったとは。
僕は笑いながら肩を叩いた。
「じゃあさ、これからはみんなで“駄洒落縛り”にしようよ」
翌朝。
「おはよう🍵=お茶よう」
「おはヨーグルト🥛」
「おはよー焼きそば🍜」
「おはヨット⛵」
駄洒落大会が始まった。
タケはちゃんとゾウスタンプを押し、「おはゾウ!」とコメントを添えていた。
その日以来、僕らのスタンプラリーはただの朝の挨拶から「笑って一日を始める儀式」に変わった。
「ねえ、これってもう“眠気スタンプラリラ”じゃない?」とサキが笑った。
言葉がリズムに乗って、ますます笑いが広がる。
そして気づけば、僕らはお互いの生活を朝から応援し合う仲になっていた。
「今日はプレゼン頑張ってくる!」
「子供の送り迎え行ってきまーす!」
「二度寝しそうだったけど起きた!」
それぞれが小さな戦いを抱えながら、駄洒落とスタンプで一日を始める。
僕は思う。
「おはよう」という一言の裏には、こんなにも大きな力があるんだって。
眠気まじりのスマホ画面に光るスタンプたちは、僕らの小さな勇気の証。
今日もまた、誰かの「おはゾウ」で目が覚める。
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