燃える机と鬼の指
「おまえの罪は──日報の未提出だ」
その声に、田村は硬直した。
気がつくと彼は、燃え盛る炎の中、鬼たちがうごめく“地獄会議室”に座っていた。
隣には、赤い装束に黒いひげ、どこかで見たことのある顔。
そう、部長の顔にそっくりな“閻魔様”がどっかりと座っている。
「日報を提出しなかったお前に、地獄の日報提出ノルマを与える」
そう言われ、目の前に現れたのは、無限に続くスパイラルノート📓と、インクがすぐに切れる地獄ボールペン🖊️。
「1日10ページ、感情を込めて書くこと」
「提出遅延は業火の罰」
うなだれる田村の背中を、うっすらと汗が伝った。
書けども終わらない「今日の気づき」「部内の所感」「未来への改善提案」。
すべて手書き、すべてフルセンテンス、そして──全て閻魔が添削。
「“やる気が出ませんでした”では済まされんぞ」
鬼たちがその周囲で「やる気出せ太鼓」をドンドコ叩き、隣では地獄の文房具屋が“書けるまで帰れませんフェア”を開催中。
「筆圧が弱い」「気づきが浅い」「絵文字が不適切」──全て赤ペンで返却される。
田村は泣きながら書いた。
炭になりそうになりながらも書いた。
やがて999ページ目を綴り終えたその瞬間、閻魔がにやりと笑った。
「この日報、上に通したぞ」
田村の背中に冷たいものが走る。
“上”──それはまさか、さらに上位の報告義務……？
「これより“月報地獄”に移行する」
目の前に分厚いファイルがドンッと置かれた。
表紙には「月報202X年度 地獄支部」とある。
──しかし、その瞬間、目を開けると田村はオフィスにいた。
夢？
いや、机の上には、999ページに及ぶ“超日報”が本当にあった。
デスクには付箋が1枚。
「昇進候補に推薦済。報連相、見事也」
その日から、田村は社内で“報連相神”として崇められ、日報の自動作成ツール開発チームに異動となった。
かつての地獄は、今や彼のキャリアの柱となった。
もう二度と、日報は地獄じゃない。
彼にとって、それは“未来を変えた灼熱の修行”だった🔥📎🧾
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