
スーツの中は演技派です
「……あれ?今の発言、さっきと言ってること逆じゃない?」
プレゼンの途中、会議室の空気がピタリと止まった。
営業部の佐野が笑顔で語る数字の裏に、ふとした違和感を覚えた企画の水島は、こっそり上司にメッセージを送った。
《佐野さん、今朝の会議では反対って言ってたのに…?》
するとすぐに返信が来る。
《あぁ、彼、二枚舌なんで😅》
その瞬間、水島の視界がグニャリと歪んだ。
気づけば、佐野の両手には“本音”と“建前”と書かれた札が握られていた。
右手で「我が社の未来は明るいです!」と掲げ、左手では「いや正直、数字は厳しい」とボソリ。
なのに、誰も気づかない。
いや、気づいてるのに黙認している?
その後も会議中、佐野は器用に札を切り替えながら話し続けた。
「ここはコストカットの好機です」➡(建前)
「ま、ボーナス減るんですけどね」➡(本音)
プレゼン終了後、拍手とともに社長が一言。
「いやー、君の二枚舌は実にバランスがいい👏」
なんと社内では、二枚舌力が評価対象だったのだ。
「本音だけでは角が立つ。建前だけでも信用を失う。両方操れる人材が必要なんだよ」
そう語る人事部長も、スーツの内ポケットから「本音」「建前」札を取り出した。
気がつけば、オフィス中に“札持ち社員”が溢れていた。
新人研修では「札の持ち方講座」、リーダー研修では「二枚舌トレーニング実技」まで導入されているという。
今や、社内の公式文書にも添付されるようになった。
【参考:この意見は建前80%、本音20%で構成されています】
水島は静かにつぶやく。
「……私も、札買おうかな🤔」
翌日、社員証の裏に小さな文字で印字された新しい項目が加わっていた。
《二枚舌スキル:★★★☆☆》
さらに社内掲示板には、こんな一文も追加されていた。
《本音と建前、適材適所でご活用ください☕》
今日も会議室には、本音と建前が舞い、社員たちの舌が巧みに踊っている🎭
📌🗣️
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