目覚ましより水が先⁉️
「……うわっ！冷たっ‼️」
朝の静寂を破ったのは、壮絶な悲鳴だった。
26歳の会社員・誠一は、平日朝7時のベッドの中で、まさに“寝耳に水”をくらった男だった。
ふわっとした夢の中にいたはずが、左耳に注がれた冷水によって強制ログアウト。
「ちょっと、目覚まし鳴ってるのに起きないからよ💢」
容赦ないピッチャー攻撃の主は、同棲中の彼女・由美だった。
「水かける！？普通！？」
「10分以上スヌーズ使う人は“寝過ぎ罪”でしょ」
そう、二人の間には“AI式生活改善ルール”という、ある意味で地獄のような制度が存在していた。
スマートホームのアシスタントが提案した「最も効果的な起床法」の結果、
それが“冷水による強制覚醒”だったのだ。
「昨日のデータ分析では、君は水攻撃が一番覚醒率が高かったよ☝️」
と冷静に言うAIスピーカーの声が、余計にイラつく。
それでも誠一は反論できない。
なぜなら昨日の朝、3度寝した挙句に会社へ遅刻。上司には睨まれ、部下には笑われた。
「まあ……目は覚めたよ」
着替えながら誠一は、まだ濡れた耳をタオルでぬぐった。
ところが、そんな“寝耳に水生活”は意外な効果を見せ始める。
会社のプレゼン当日、寝坊どころかスパッと目覚め、集中力も抜群。
「誠一くん、今日は冴えてたね！」
「寝耳に水、効いたわ～☀️」
同僚に笑われたが、本人はどこか納得していた。
たしかに最悪の朝だった。
けどその“最悪”が、人生のリズムを整えてくれるなんて思わなかった。
そして今朝――
「……うわっ！またかよ！」
「今日ちょっと寝返り打っただけだよ！？」
由美の手には、またピッチャー。
しかし誠一は、苦笑いしながらつぶやいた。
「せめてぬるま湯にしてくれ……」
水の冷たさも、いつかは愛情の温度になる。
目覚めは突然でも、目指す一日は自分で選べる。
AIと水と恋の朝。
誠一は、また新しい一日をはじめた。
コメント