
いいねに振り回される猫
うちの猫・ミケは、ある日突然スマホに興味を示し始めた。
よくある「画面にじゃれる」かわいい仕草だと思っていたのだが、事態はそんな単純ではなかった。
ミケは私のSNSをじっと覗き込み、私が投稿した写真につく「いいね」の数を真剣に見つめているようだった。
最初は気のせいだと思っていた。
しかし、私が夕飯の写真を投稿して「いいね」が少ないと、ミケは露骨に不機嫌になった。
翌朝、私は衝撃的な光景を目にした。
私のスマホが勝手に開かれ、見覚えのない猫目線の写真が投稿されていたのだ。
タイトルは「今日のにゃるそっく」。
ミケが家の中を巡回している写真だった。
この“にゃるそっく”というネーミング、まさか 「にゃるそっく2.0 猫が見ていた防犯ハート事件簿」の猫たちを参考にしたわけではあるまい……と思いたい。
さらに驚くべきことに、その投稿には意外と多くの「いいね」がついていた。
ミケは自分の前足で画面をタップしながら、まるで「ほらね」と言いたげに私を見上げる。
その日からミケは完全にSNSの虜になった。
ごはんを食べながらもチラチラ通知を確認し、人気の猫アカウントを研究している。
最近はスマホに映る自分の顔の角度まで気にしている。
その姿は、どこか 「猫カフェで大事件⁉️ 伝説の猫がやらかした」で働く看板猫のようにプロ意識が芽生えているようにも見えた。
ある晩、私はミケの新しい投稿に気づいた。
「飼い主、今日は構ってくれなかったにゃ」。
写真には少し背中を丸めているミケ。
完全に被害者ポジションである。
コメント欄には「ミケちゃんかわいそう」「もっと遊んでもらってね」といった温かい声。
ミケはそれを読みながら尻尾をご機嫌に揺らしていた。
私は思わずため息をつく。
猫にまで承認要求を刺激される時代が来るとは思わなかった。
ところが、数日後。
ミケは急にSNSを開かなくなった。
いつもなら通知を見るためにタタッとスマホのそばに寄ってくるのに、今日は毛づくろいばかりしている。
気になってミケのアカウントを開いてみると、最新の投稿の「いいね」が少なかった。
理由は単純で、私が掃除中にうっかりミケの動きを邪魔していたせいで、写真が少しブレていたのだ。
ミケは落ち込んで、窓の外をじっと眺めている。
そんな背中がいつもより小さく見え、私はそっと隣に座った。
「ミケ、気にしなくていいよ。写真がブレてたって、ミケはミケだろ」。
そう声をかけると、ミケはゆっくりこちらを向いた。
その瞳は、まるで「本当に?」と問いかけているようだった。
私はスマホをそっと閉じ、ミケを抱き上げた。
するとミケはやっと安心したように喉を鳴らし始めた。
その日からミケはSNS依存を少しだけ卒業した。
代わりに、私の膝の上に乗る時間が増えた。
きっと、“いいね”よりも大切なものに気づいたのだろう。
私も同じだ。
ミケの温かい体温を感じながら、画面の向こうの数字ばかり気にしていた日々を少し反省した。
今ミケが求めているのは、通知の数ではなく、ただ一緒に過ごす時間なのだから。


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