
昼寝だらけの国のゆる改革
かつて、この国は世界一のゆるさで知られていた。
政策の柱は「ネコノミクス」。
“たくさん寝れば、たくさんひらめくはずだ”という理屈で全国民が昼寝の義務を負っていた。
しかし、昼寝が気持ち良すぎた。
国民のほとんどはひらめく前に夕方になってしまい、誰も働かないという小さな問題が生じた。
政府はついに対策会議を開くことになった。
議長台に座ったのは、猫の総理ニャダ。
目を細めながら、「みんな、少しだけ働く方法を考えるにゃ」と言ったが、その声もどこか眠そうだった。
官僚猫たちは次々と改善案を示した。
まずは“ごはん税”を導入して、ごはんを食べる量をやや控えめにし、食べたあとに必ず眠くなる現象を弱める構想が出た。
しかし、国民からは「ごはんの量が減ると機嫌が悪くなる」という切実な反対意見が寄せられ、案は保留となった。
次の案は“なでなで給付金”。
人間に撫でられるとやる気が出るタイプの猫が一定数存在するため、撫でられた回数に応じて給付金を支払う制度だ。
しかし、ここでも問題が起きた。
誰もが気持ちよさそうに喉を鳴らし、そのまま寝落ちしてしまったのだ。
結果、財務省は「給付金を配れば配るほど寝る国になってしまう」と判断し、これも不採用となった。
「では、生産性の高い猫を国のモデルケースとして表彰する制度はどうにゃ?」総理が提案した。
すると会場中の猫が一斉に背筋を伸ばした。
誰もが表彰されたいのだ。
名前を呼ばれ、拍手を浴び、写真を撮られ、そして賞品の高級カリカリをもらいたい。
ところが、優秀猫がなかなか決まらなかった。
みんな突然眠くなるため、長い会議に参加できない。
会議時間を短くしようとしても、寝落ちした猫を起こすだけで時間が過ぎてしまう。
そこで事務局が考案したのが“5分会議制度”だった。
5分以内に話をまとめられない議題は、そもそも重要ではないという大胆な仕組みである。
この制度が導入されると、会議の効率は一気に上がった。
なにより、猫たちは5分以内なら眠気に負けないことが多かった。
「話が短いって、こんなに快適なんだにゃ!」と評判になった。
一方、民間でも改革の動きが始まった。
ある会社では、新しい勤務スタイル“寝るか働くか二択制”が導入された。
中途半端に眠くなったら寝ることで生産性が保たれるという理屈だ。
社員の猫たちは「眠いけど、いまは働きたい気分」とか「働きたいけど、いまは眠たい気分」といった曖昧な気持ちを正直に選べるようになり、意外にも業績は少しだけ上向いた。
このゆるい職場の空気は、首輪ガジェットが活躍する物語『犬猫スマート首輪事件簿!笑える日常』で描かれる世界ともどこか似ていると言われ、SNSでちょっとした話題になった。
さらに、街角に“ひらめきステーション”が設置された。
これは、ひらめきやすいと噂の小さな箱で、入ると適度に暖かく、ほどよい暗さで、ほんのりカツオの香りがする。
猫がそこで5分間目を閉じると、なぜかアイデアが浮かんでくるらしい。
ただし、長く入ると確実に眠るため使用時間は厳密に管理されていた。
食に関する改革も始まった。
健康志向の猫たちからの声を受けて、“おかわり自由だけど昼寝付き”の社食プランが試験導入されたのである。
これは、食事と休憩のバランスを見直す取り組みで、ペットの健康をテーマにした物語『ペットの未来食堂 ― 健康をめぐる物語』に影響を受けたと噂された。
結果として「しっかり食べて、しっかり短く休む」というリズムが広まり、午後の仕事中に机の下で丸くなる猫は少しだけ減った。
そんな改革が続くなか、この国は徐々に変化を見せた。
少しずつ昼寝の時間が減り、ほんの少し仕事の量が増え、失われていたひらめきの力も戻りつつあった。
それでも国はゆるかった。
「急いで働くとケガをするにゃ」という昔ながらの教えが根強く残っていたからだ。
ある日、総理ニャダは国民向けに一つのメッセージを発表した。
「たくさん寝るのも大事にゃ。でも、ほんの少しだけ頑張ることも悪くないにゃ。ゆるさと頑張りのバランスこそ、ネコノミクス再建の鍵にゃ」
この言葉は多くの国民に響いた。
頑張りすぎず、怠けすぎず、自分のペースで少しずつ進む。
そんなゆるやかな働き方が国全体に広まり、幸福度はゆっくりと上昇した。
そして今では、かつてのようにただ寝るだけの国ではなく、
“ちょっと働く国”として世界中に知られるようになった。
それは決して劇的な変化ではなかったが、猫たちのリズムにはちょうどよかったのだ。
あわせて読みたい作品
・ひと言小説「駅での再会」
・ひと言小説「猫の恩返し?」✨
・漂流ネコ島〜波間に消えた約束〜
noteで読む後日談・続編はこちら
小説「ネコノミクス再建計画とゆるい国の働き方改革」の後日談と続編は、noteにて公開しています。
総理ニャダたちがその後どんな“ゆる改革”を進めるのか、よろしければこちらもご覧ください。


コメント