
浮いた話じゃなかった✈️
「おい、また浮いてるぞ」
隣の席から冷めた声が飛んだ。
営業二年目の中島悠は、ふわりと宙に浮かんだまま、ノートパソコンを見つめていた。
「…浮いてません。飛行計画を立ててるんです」
「それを“浮いてる”って言うんだよ」
そう。
中島は本当に浮いていた。
というのも彼の“机上の空論”は、ある日突然「机上」で「空を飛ぶ」現象として具現化したのだ。
会議中、ふと書いたプレゼンのアイデアが突風のように舞い上がり、彼自身を宙へ浮かせる。
しかも、浮いている間はテンションが異常に高くなる。
「完璧な戦略を思いついた!」とドヤ顔をしては、机の上をスーパーマンのように泳ぐのだ。
それはもはや社内の“風物詩”。
毎週月曜の午後、中島がふわりと浮いたとき、「ああ今週も机上の空論タイムが来たな」と皆がコーヒーをすする時間帯でもあった☕️
しかし本人はいたって真剣。
「論理的な飛躍は、物理的な飛翔に通ずる」
なんて謎の名言を残しながら、資料の上を滑空していく。
ある日、社長が偶然その様子を見てしまった。
「……なんだこれは?」
「これはですね、“空論に実態を与える試み”でして…」
浮かんだままの中島に、社長は静かに言った。
「君、その空論、外でやってくれないか?」
クビか…と思った次の瞬間、
「我が社の新規事業、“空中会議室”プロジェクトリーダーに任命だ」
なんと、中島の“浮いてる姿”がSNSでバズっていたのだ。
海外からも「空中ブレスト」なる新しい働き方として注目され、取材依頼が殺到。
社員全員が浮かぶ未来に向けて、会社は真剣に空間設計の見直しを始めていた。
「空を活用できないオフィスに、未来はない」
中島は本気でそう語った。
実際、彼の浮遊アイデアは、いくつものプロジェクトを成功へと導き、社の売上にも貢献した。
それからというもの、中島は企業のPRイベントで“空中アイデアマン”として浮かび続けることとなった。
もはや彼にとって「空を飛ぶこと」は、夢ではなく日常であり、誰かの背中を押す風にもなっていたのだ。
小さな机の上の空論が、いつの間にか現実を大きく動かす風になった🌬️
机上の空論。
それは、浮いてるようでいて、誰より地に足をつけた夢だったのかもしれない。
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