
肩に重すぎるプレッシャー
月曜日の朝、営業部の小島はいつもより少しだけ早く出社した。
理由は単純。
肩が痛かったのだ。
というのも、先週末に会社から支給された新制度——「肩書き名札の常時着用」が導入されたからである。
それも、ただの名札ではない。
「部長」「課長」「係長」「派遣」「バイト」など、過去に経験したすべての役職を、順番に肩へ吊るすという謎ルール付きだった。
「肩書きとは重みである」——社長の言葉らしい。
だが物理的な“重み”とは誰も言っていないはずだ🪪。
最初は笑っていた同僚たちも、次第にその“重さ”に顔をしかめていった。
なにせ、名札はどんどん増える一方。
小島は昔、部署異動が多く、アルバイトや派遣社員も経験済み。
その結果、両肩に11枚の名札がぶら下がるハメになっていた。
「肩がちぎれる……」
思わず口から漏れた悲鳴に、後輩の谷口が振り向いた。
「先輩、今週から“課題ラベル”も増えましたよ」
「は?」
「“やり残した課題”を札にして吊るすらしいです。僕は“英語の勉強”って書かれてました」
もうギャグである。
もはや会社ではなく、お笑い劇場だ。
会議室に入ると、空気が重い。
いや、名札で肩が重い人たちの集まりだから、物理的に空気も沈むのだろう。
上司の村田課長が重そうに言った。
「おい小島、お前“派遣”の札、ちょっとズレてるぞ」
「肩が限界なんです……」
「肩で語れって言葉があるだろ。整えておけ」
そのとき、小島の肩から名札が一枚、パサリと落ちた。
「バイト」だった。
全員が息をのむ。
「肩書きを落とす=責任放棄」とみなされるルールが昨日追加されたばかりだ📄。
村田課長の目が光った。
「小島……その札、拾えるよな?」
「は、はいっ……!」
震える手で札を拾い、ピンで肩に戻した瞬間、小島は悟った。
——これはもう、名札地獄だ。
帰り道、小島は整形外科に寄った。
「これは“肩書き症候群”ですね」
医師が静かに言った。
どうやら、社会全体が病んでいるらしい。
だが、小島は思った。
来週からは「社内断捨離制度」が始まるらしい。
一枚ずつ札が減っていくのなら、それも悪くないかもしれない🙂。
そう思った時、隣の谷口が言った。
「でも新制度、今度は“失敗リスト”を首から吊るすらしいですよ」
——首が回らなくなる日も近い。
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