
その夜、僕は「カルディ はちみつ 偽物」という検索ワードを震える指で打ち込んだ。
買ったばかりの瓶を前に、なぜか人生まで疑い始めていた。
SNSのタイムラインが、やけに甘く、やけに疑わしかった。
カルディで買ったはちみつは、見た目が完璧だった。
黄金色で、瓶の中でゆっくりと揺れ、いかにも「丁寧な暮らし」を送っている人の冷蔵庫にいそうな顔をしている。
僕はトーストにそれを垂らし、写真を撮り、何も考えずSNSに載せた。
その瞬間から、物語は始まった。
いいねが増えた。
見知らぬ人から「それ偽物じゃないですか?」というコメントが付いた。
最初は冗談だと思った。
しかし次の通知、その次の通知でも「カルディのはちみつ、前に話題になりましたよ」「純粋じゃないって噂ありますよね」と続いた。
甘さより先に、不安が舌に広がった。
僕は検索した。
カルディ はちみつ 偽物。
出てくる出てくる。
断定的な言葉。
曖昧な体験談。
やたら強い口調のアイコン。
「本物を名乗るには条件がある」「ラベルをよく見ろ」「情弱が買う」など、なぜか人格否定まで添えられている。
この空気、どこかで嗅いだことがある。
以前読んだ「ハムスタグラム疲れ いいねに追われた日々」と同じ匂いだ。
正しさより、強さが勝つ場所。
声が大きいほうが事実になる世界。
その夜、はちみつは冷蔵庫の奥に追いやられた。
まるで疑惑の人物のように。
瓶を開けるたび、これは本当に信じていい甘さなのかと自問する。
トーストの上で照り返す光が、やけに挑発的だった。
翌日、会社でもその話をした。
「カルディのはちみつって偽物らしいですよ」
誰かが言い、誰かが頷き、誰かがスマホを取り出した。
誰も確かめてはいない。
でも全員が、少し賢くなった顔をしていた。
昼休み、僕の投稿はなぜか拡散されていた。
「これ、昨日話題になってたやつだ」
「やっぱ怪しいよね」
「でもおいしいならよくない?」
意見は割れ、結論は出ない。
なのに数字だけは伸びていく。
数字が伸びるたび、心が軽くなるのはなぜだろう。
同時に、どこかで置いてきぼりになる感覚もあった。
それは炎上案件!AIが考えた小説 – 焦げすぎた恋のBBQを読んだときに感じた、あの居心地の悪さとよく似ていた。
盛り上がるほど、誰かが静かになる。
帰宅後、僕は瓶をじっと見つめた。
ラベルを読む。
原材料を見る。
原産国を見る。
見れば見るほど、分からなくなる。
「偽物」という言葉は、具体的な定義を持たないまま、万能な攻撃力だけを持っていた。
ふと思った。
このはちみつが偽物だとして、僕は何を失うのだろう。
朝のトーストの幸福か。
写真の映えか。
それとも、安心して信じられる気持ちか。
その夜、もう一度はちみつを使った。
今度は写真を撮らず、投稿もしなかった。
ただ食べた。
普通に甘かった。
疑いを混ぜなければ、ちゃんと甘かった。
翌朝、SNSを開くと、新しい話題が流れていた。
別の商品。
別の疑惑。
別の正義。
昨日までの騒ぎは、もう誰も覚えていない。
僕はそっと投稿を消した。
代わりに、何も書かない一日を選んだ。
はちみつは冷蔵庫の定位置に戻った。
もう追及されることもなく、ただの調味料として。
真偽を確かめることは大切だ。
でも疑うこと自体が目的になると、甘さは全部逃げていく。
カルディのはちみつは、今日も変わらず黄金色だ。
少なくとも、僕の朝を少しだけやさしくしてくれる。
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