
小学四年生のひな祭りの日、配膳係の佐々木は神になった。
誰もそれを口には出さなかった。
でも全員、分かっていた。
今日だけは、佐々木がこのクラスの運命を握っている。
給食トレーに三色ゼリーが並ぶ。
教室の空気が静かに変わる。
普段うるさい山田も黙る。
消しゴムを投げ合っていた男子も手を止める。
理由は単純だった。
三色ゼリーには、個体差がある。
赤が厚いやつ。
白が異常に細い個体。
緑がなぜか主張強めのやつ。
佐々木はゆっくりゼリーを持つ。
その動きは、普段より三割遅い。
いや違う。
緊張で世界がスローモーションになっていた。
最初に呼ばれたのは前列の女子だった。
赤が厚い。
明らかに厚い。
教室の後ろで、小さく「うわ…」という声が漏れる。
佐々木は表情を変えない。
彼は今、感情を捨てている。
二人目。
普通。
三人目。
明らかに緑が強い。
その瞬間、空気が微妙にざわつく。
先生は黒板に「ひな祭り」と書いていた。
何も気づいていない。
先生は言う。
赤は魔除け。
白は清らかさ。
緑は健康。
でも子どもは知っている。
重要なのは意味ではない。
配分だ。
問題はここからだった。
四人目に渡されたゼリー。
赤が、ほぼ存在しない。
教室の空気が一瞬止まる。
佐々木も一瞬止まる。
だが戻れない。
配ってしまった。
その子は一瞬だけ遠い目をした。
でも笑った。
大人だった。
まだ小学四年生なのに。
そして始まる。
おかわりジャンケン。
これは行事ではない。
生存競争でもない。
でも、なぜか本気になる。
普段ジャンケン弱い田中が勝つ。
教室がどよめく。
田中はゼリーを二つ持って席に戻る。
歩き方が、少しだけ偉そうになる。
その日、田中はヒーローだった。
大人になって、会社の食堂で三色ゼリーを見たとき、私は思った。
人間はたぶん、一生こういうもので少しだけ感情が動く。
食べ物一つで空気が変わる。
それを思い出したのは、以前読んだ「瑣末なこととは!AIが考えた小説-瑣末なパンの逆襲」だった。
さらに思い出す。
給食の交換文化。
「ゼリー少しあげるから牛乳ちょうだい」
あれは交渉だった。
しかも割と本気の。
似た空気を感じたのは、「おにぎりトレード梅干しとツナマヨの大逆転劇」だった。
会社の後輩が言った。
三色ゼリーって、そんなに特別でした?
私は少し考えて答えた。
特別じゃない。
でも、全員が同じ日に同じ顔をした記憶は、なぜか残る。
美味しかったわけじゃない。
でも、忘れない。
あの日、佐々木は神だった。
そして私たちは、少しだけ真剣にゼリーを見ていた。
たぶんそれで、十分だった。
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大人になった佐々木が、同窓会でゼリー配膳事件を語る少し笑えて少し懐かしい後日談です。
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