ポケットが凍る職場🌬
「うわっ……なんだこれ⁉️」
昼休み、オフィスに突然響き渡った悲鳴に、社員たちが一斉に振り返った。
声の主は、営業部の田中。
スーツの内ポケットから白い霧のような冷気が、ブシューッと噴き出している。
「ふところが……寒いっ……て、物理的な意味で⁉️」
田中はポケットを押さえながら凍える表情を浮かべた。
周囲の社員たちはというと、なぜか今日は冷房が効きすぎているどころか少し暑いくらい。
「田中さん、大丈夫？それドライアイスでも入ってたの？」
「お弁当じゃなくて、冷凍庫ごと持ってきたとか？」
女子社員たちは口々に冗談を飛ばしながらも、どこか心配そうだ。
だが、当の田中はというと——ポケットから取り出したのは、薄っぺらな財布。
中には、ポイントカードと、使い古された千円札が一枚。
「給料日前でさ……ふところが寒いって、こういうことか……」
その瞬間、社内がどっと笑いに包まれた。
上司の部長までが吹き出して、「お前、それ逆に才能あるよ」と肩を叩いたほどだ。
そしてこの事件は、社内チャットで写真つきの「#ふところが寒い事件」として投稿され、なぜか大ウケ。
「冷気の出る社員がいる会社、安心感すごい」などと謎の安心感を生む現象に発展。
だがこの日をきっかけに、田中のふところは本当に暖かくなった。
なぜなら、その様子を投稿した写真がバズり、ある冷却グッズメーカーの目に留まったのだ。
「弊社の広告にぜひ」
まさかのモデル起用。
内ポケットから冷気を出す男、というキャッチコピーとともに、田中は小さな有名人に。
「おかげで、ボーナス前に財布が膨らんだよ」
そう言って笑う田中の顔は、もう寒そうじゃなかった。
社内では今も、ポケットを見て「冷気でてる？」と茶化されるが、田中は堂々と返す。
「出るよ。夢と、希望と、ちょっとのギャグがな」 こうして、「ふところが寒い男」は、会社でいちばん笑顔を運ぶ存在になった。
コメント