
「ちゃんとやって」と言われて、何をすればいいか分からなかったことはないだろうか。
具体的な指示はないのに、なぜか責められている気がする。
その違和感の正体を、少し笑える形で書いてみた。
「ちゃんとやって」と言われた瞬間、彼は少しだけ姿勢を正した。
何をすればいいのかは分からないが、とりあえず気合だけは入れた。
ちゃんと、という言葉には不思議な圧がある。
具体的な指示はないのに、失敗したら自分の責任になる気がする。
彼はちゃんと資料を作った。
誤字を直し、数字を確認し、体裁も整えた。
それでも返ってきた言葉は「もう少しちゃんとできたよね」だった。
どこをどう直せばいいのかを聞こうとして、やめた。
ちゃんとできていない人間だと認定されそうだったからだ。
ちゃんとという言葉は便利だ。
言う側は説明しなくていい。
受け取る側が勝手に反省し、勝手に修正案を考える。
責任はいつも、ちゃんとしなかった側に落ちる。
家庭でもちゃんとは活躍する。
ちゃんと片づけて。
ちゃんと話を聞いて。
ちゃんと考えてから言って。
そのどれもに、基準は書かれていない。
彼はある日、ちゃんとの意味を調べてみた。
辞書には、きちんと、まじめに、という説明が並んでいた。
だがそれは説明のようで、説明になっていなかった。
きちんとも、まじめにも、数値は存在しない。
人によって勝手に伸び縮みする言葉だった。
職場では、ちゃんとが多用される人ほど評価が高かった。
理由を説明しない分、仕事ができるように見えるからだ。
逆に、具体的に説明する人は細かい人扱いされた。
その構図は、以前読んだ肩書き社会!AIが考えた小説 – 名札に潰された男の話とよく似ている気がした。
言葉が、人を押しつぶす瞬間の話だった。
彼は次第に疲れていった。
ちゃんとを満たそうとして、基準のない的を投げ続けていたからだ。
どれだけ頑張っても、まだ足りないと言われる余地が残る。
ちゃんとは、完成しない宿題だった。
ある会議で、彼は勇気を出して聞いた。
ちゃんとって、どこまでやればいいですか。
一瞬、空気が止まった。
質問したこと自体が、ちゃんとしていないような沈黙だった。
返ってきた答えは曖昧だった。
まあ、常識の範囲で。
彼はその瞬間、少し笑いそうになった。
常識もまた、人によって形が違う言葉だったからだ。
そのズレは言葉の綾が面白い!AIが考えた小説-話が違うぞ!で描かれていた違和感と同じ匂いがした。
それから彼は、ちゃんとを分解するようにした。
ここまでやれば大丈夫ですか、と確認する。
期限と条件を言葉にする。
ちゃんとを、そのまま受け取らない。
すると不思議なことが起きた。
怒られる回数が減った。
期待のズレが小さくなった。
ちゃんとという魔法が、ただの言葉に戻った。
彼は今でも、ちゃんとと言われる。
ただ以前ほど、身構えなくなった。
それは指示ではなく、感情だと分かったからだ。
ちゃんとやってほしい、という気分の表明にすぎない。
ちゃんとは、万能な言葉ではない。
むしろ曖昧さを押し付けるための省略形だ。
それに気づいたとき、彼は少し楽になった。
人生は、ちゃんとしなくても、意外と続いていく。
あわせて読みたい作品
・肩書き社会!AIが考えた小説 – 名札に潰された男
・理想の上司!AIが考えた小説 – 頭が上がらない話
・二枚舌!AIが考えた小説 – 右手に本音、左手に建前
noteで読む後日談・続編はこちら
小説「ちゃんとの正体が誰にも分からない話」の後日談と続編は、noteにて公開しています。
あのあと彼が「ちゃんと」をどう扱うようになったのか。
職場で起きた、少しだけ可笑しい変化も描いています。
よろしければ、こちらもご覧ください。
👉 ちゃんとの正体 後日談(noteへ)

コメント