本番中に大移動⁉
「では次のニュースです」
原田アナが淡々と読み上げているその時だった。
――ガタン。
微かに揺れたスタジオに、スタッフの視線が集中する。
が、彼女の隣で座っていた中村アナは、平然とニュースを続けていた。
ただひとつ違うのは…彼の机が、ゆっくり後方へ転がっていたことだった。🌀
「まもなく都内では大雨の影響が…」
本人はまったく気づいていない。
背後の世界地図だけが、どんどん遠ざかっていく。
理由は単純。
今朝、技術スタッフがニュースデスクのキャスター（車輪）をメンテナンスした際、ブレーキを“外したまま”にしていたのだった。
「あれ…中村さん、どこ行ってます？」
小声でささやいた原田アナの顔が引きつる。
その瞬間、彼女の椅子もまた、ゴロリ…と微妙に動き出した。
中継カメラのフレーム内には、椅子と机に乗った2人のキャスターが、ゆっくり斜め後方へと滑っていく様子が映り続けていた。
スタジオは一瞬パニック。
だが現場ディレクターの判断は早かった。
「よし、ズームアウトで追え！」
📺こうして“動くニュース”という前代未聞の映像が全国に放送された。
SNSでは瞬く間に拡散した。
『キャスターが動くニュースとか新時代🤣』
『キャスター（物理）で伝えるキャスター（職業）』
『速報：中村アナ、最終的に倉庫に到着』
翌日、上層部から届いたお達しはこうだった。
「今後、報道番組は“固定キャスター”でお願いします」
だが社内には妙な空気が残っていた。
一部スタッフの間でささやかれる。
「今度は天気予報ブースを走らせようか」
「選挙速報も、得票に合わせて前進させよう」
まさかの“移動式ニュース”の時代が来るのかもしれない。
スタジオ全体がキャスターに載せられ、番組の流れも物理的に“流れる”未来。
もはや「止まる＝古い」という発想が、静かに根付き始めていた。
情報も、笑いも、動き出したら止まらない。
物理的にも、時代的にも。🚀
キャスターたちは、今日も滑らかに走っている。
その先に、どんなスクープが待っているのかは――
誰にもわからない。📦🗞️💺
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