沈黙の破壊力🌀
「……ぷぅ……」
放課後の教室、静寂を破ったのは、なんとも軽やかな音だった。
誰もが一瞬フリーズする。
「はいっ！今の、私です！」
元気よく手を挙げたのは、2年C組の斎藤あんず。
まるで朝のホームルームで日直が返事するようなノリだった。
彼女は“おなら部”の部長。
正式名称は「空気音研究会」。
しかし校内では、誰もが“おなら部”と呼ぶ。
この部の目的は、「おならの偏見をなくすこと」。
毎日放課後、風通しのいい特別教室で、真剣に研究している。
「今日のテーマは、笑いを誘う“タイミング”についてです！」
そう言うと、あんずはホワイトボードに「給食直後／試験中／好きな人の前」と書き出す。
部員たちは真顔でうなずき、各シチュエーションでの“響き具合”と“空気の振動”を検証する。
特に1年生の田辺くんは熱心で、デシベル計を使いながら記録をつけていた。
「おお、今のは9.2db！ソフトだけど長さが美しい！」
通りがかった生徒たちは眉をひそめつつも、つい立ち止まってしまう。
なんだこの空気感は。
シュールで、ちょっと楽しそうで、でも絶対入りたくないような……。
だが、そんなおなら部が注目されたのは、秋の文化祭だった。
彼らは「音と笑いの科学展」と題して、“おならを音楽に変換する装置”を展示。
これが予想外の大ヒット！
子どもたちはゲラゲラ、先生たちは絶句、保護者たちは妙に納得していた。
「恥ずかしい音も、笑いに変えれば武器になる」
そう言ったのは顧問の内山先生。
実は音響のプロだったのだ。
今では“空気音研究会”は、他の学校からも視察が来る人気部活に。
あんずは今日も堂々と宣言する。
「おならは、空気のエンタメです‼」
部活動。
それは、誰かの偏見をひっくり返す力を持っている。
静寂を破る勇気が、時には世界を変えるのだ。
ちなみに今後の研究テーマは「屁の方向性と心の向きの関係性」。
青春とは、案外くだらないことに本気になれる瞬間のことなのかもしれない。
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