
正体不明の新人くん
「はじめまして。今日から夜勤入ります、篠田です」
深夜のコンビニに現れた新人は、サングラスにトレンチコートという完全に“あやしい”風貌。
なのに履歴書もちゃんとしてるし、店長のお墨付きまである。
大学生バイトの若月みなみは、苦笑いしながら挨拶を返した。
「ねえ、なんでそんな格好?」
「捜査中なんで」
「は?」
「俺、本職は探偵です」🕵️♂️
……やばい人かもしれない。
でも、仕事は驚くほど完璧だった。
棚の整理は緻密、レジも正確、おでんの補充タイミングもプロ。
ただひとつ変なのは、やたらと虫眼鏡を使いたがること。
「このチキン、揚げ時間が規定より20秒短い」
「大根の角が立ってる。これは新人の犯行ですね」
常連さんにまで「あの人、マジの探偵?」とささやかれる始末。
ある夜。
みなみがレジ下を掃除していると、手書きのメモが出てきた。
『からあげ棒 3:00 誰かが盗む』
「ねえ、これ…仕込み?」
「挑戦状です」
篠田は真剣な目で言った。
その瞬間から“深夜捜査”が始まった。
在庫数の確認、防犯カメラの設定強化、なぜか棚下にセンサーまで。
みなみはついにしびれを切らす。
「そんなの、気のせいか勘違いでしょ」
でも事件は起きた。
翌朝、篠田はタブレットを差し出した。
「これ、防犯カメラの映像です」
映っていたのは、午前3:00ちょうど。
誰かがからあげ棒に手を伸ばし、そっとレジ袋に入れる様子。
なのに、その時間のレジ記録には該当商品なし。
「からあげ棒が一本、消えました」
「嘘でしょ…」
みなみは青ざめる。
次の夜、篠田が言った。
「犯人は君です」
「は?」
「昨日の夜、君は自分で夜食に取ったんです。
でも眠すぎてレジ打ち忘れた。
後から気づいてこっそりメモを書いて捨てた。
無意識に自分の痕跡を残してしまったんです」
「はぁ!?そんなんじゃ記憶にないって!」
篠田はふっと笑った。
「冗談です」
「…は?」
「いや、半分本気です。
もう半分は……君に話しかけたくて仕組んだってやつ」
みなみは呆れ顔で息をついた。
「それ、ナンパのつもり?」
「ナンパじゃありません。
求人に“パートナー募集”ってあったから、ちょっと勘違いして」
「恋愛パートナーじゃないし!」
「でも、コンビニの“からあげ棒”みたいなもんです。
揚げたては逃すと二度と戻らない」😊
みなみは少し笑って言った。
「じゃあ今度、ちゃんとレジ通してから告白しなよ」
その夜、からあげ棒はしっかり購入された。
レシートにはこう打たれていた。
『商品:からあげ棒(パートナー1名)』
レジ奥で、ひとつの恋が静かに動き出していた。
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