
立ちすぎ注意報発令中
「足が……棒だ……」
朝の通勤ラッシュ、都心のとある駅のホーム。
吉田タカシ(28)は、毎朝1時間半立ちっぱなしで会社に通っていた。
電車の遅延。車内の混雑。寝不足の目に、スマホの通知が刺さる。
その日もタカシは、何気ない顔でホームに立っていた。
ただ違ったのは――本当に足が棒になったことだった。
「えっ……動かない……マジで棒だ……!」
見下ろすと、自分の膝から下が木の棒になっていた。
通勤客が次々とタカシの横を通り過ぎる。
誰も気にしていない。いや、気づいていないのか?
すると隣のサラリーマンがポツリとつぶやいた。
「君も……か」
その男の足も、見事に棒だった。
「毎日立ちっぱなしでな……もう元には戻らん」
なんと、ホームには棒足族が紛れていたのだ。
彼らは皆、満員電車と戦い続けてきた“戦士”だった。
「いや、俺まだ28ですよ!戻れるはず!」
タカシは叫んだが、棒足族は静かに首を振った。
「立ちっぱなしは魂を蝕む……戻るには“座る”しかない」
その瞬間、駅構内のアナウンスが流れた。
《只今より、奇跡の空席が一両目に発生しました》
タカシの心がざわめく。
立ち続けてきた者に与えられる唯一の救済――着席。
タカシは棒足のまま、全力でホームを走った。
まわりの棒足族も続々と動き出す。
シュールな絵面の中、棒足ランナーたちが電車に突撃する。
「うおおおお!!!」
タカシが飛び込んだ瞬間、ついに奇跡が起きた。
――彼の足が、元に戻っていたのだ。
「座れた……あったかい……」
電車のシートが、人生で一番柔らかく感じた。
タカシは決意した。
「今日からは……始発駅から乗る」
それからというもの、彼は早起きし、誰よりも早く座席を確保するようになった。
その日も、駅のホームには新たな“棒足予備軍”が立ち尽くしていた。
だが、タカシはもう迷わない。
座るという勇気が、彼の未来を変えたのだった。
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