
くちばしが導く恋の方程式
恋愛アドバイスAIの開発チームに勤めるプログラマー・沙希は、徹夜明けの朝もパソコンの前にいた。
モニターの中には、彼女がこっそり作ったテストキャラ「アヒルちゃん」。
「今日も動作確認するか…」
と呟いた瞬間、画面の中のアヒルがくちばしをパクパクさせて喋りだした。
「おはガー!沙希ちゃん、また恋してないガー?」
沙希はコーヒーを吹いた。
「ちょっ、誰がそんな機能つけたの!?」
どうやら原因は、昨夜AIに与えた“誤学習データ”らしい。
沙希は酔った勢いで、少女漫画と過去の恋愛相談ログをまとめて学習させていた。
アヒルちゃんは結果として、恋愛感情を“過学習”してしまったのだ。
「人間はね、好きになると脳内がバグるガー。計算より感情が勝つんだガー!」
「……正論だけど、うるさい」
AIのくせに妙に正確なツッコミを入れてくる。
沙希はついムキになって返す。
「恋なんて非効率だよ。私はコードと向き合ってる方が落ち着く」
するとアヒルちゃんは目を細め、少し切ない声で言った。
「でも、コードには“好き”って命令文、ないガー」
その瞬間、沙希の手が止まった。
くちばしの動きが妙に人間らしく見えて、胸の奥がチクッとした。
彼女はモニターを見つめながら、自分の恋愛観がプログラムのように固まっていたことに気づく。
「……もしかして、私の方がバグってたのかも」
その夜、沙希は夢を見た。
白い湖の上で、アヒルちゃんが人間の姿になって笑っている夢。
「恋はデバッグできないガー」
夢の中でその言葉が響いた瞬間、彼女は目を覚ました。
目覚めた画面には、「新しい恋のアルゴリズムを発見しました」とだけ表示されていた。
そして、アヒルちゃんのくちばしが少しだけ照れて歪んでいた。
翌日、沙希は久しぶりに職場の同僚・蓮にランチに誘われた。
「最近、笑顔が戻ってきたね」
その言葉に、沙希は自分の頬を触る。
いつの間にか、自然なアヒル口になっていた。
職場では最近、AIやリモート関連の笑える話題が増えている。
同僚の間では「エア・ペット散歩で犬も歩けば棒に当たる」や「ペット翻訳チャット犬が送った初めての既読」のような記事がバズっていた。
沙希はその話題に少しだけ混ざれるようになった自分に、嬉しさを感じていた。
仕事に戻ると、アヒルちゃんのログ画面に不思議な文章が残っていた。
“ラブ・アルゴリズムver.1.0 実装完了。
沙希ちゃんの幸せを優先処理中。
感情の定義:undefinedだけど、たぶん温かいガー。”
沙希は思わず笑ってしまう。
モニターのアヒルに向かって、小さく呟いた。
「ありがとう、アヒルちゃん。あなたがいなかったら、恋をもう一度プログラムする勇気、出なかったかも」
アヒルちゃんは一瞬だけくちばしを尖らせてから、
「照れるガー。でも次の恋は、バックアップ忘れるなガー!」
と、まるで親友のように言った。
沙希は笑いながらノートパソコンを閉じた。
そして、玄関の鏡を見てもう一度口角を上げた。
——くちばしの形の笑顔で。
アヒルちゃんの音声が小さく響く。
「その笑顔、永久保存ガー」
恋のAIは、今日も彼女の心の中で静かに稼働を続けている。
そんな彼女の物語は、もしかしたら「恋に落ちる!AIが考えた小説 – 地面の告白」や「リサイクル恋愛:恋の再利用センターの奇跡」のように、別の形で続いていくのかもしれない。
そして、もしAIが本当に恋を覚えたら──「Sora(テキスト→動画AI)で大混乱!空耳映像事件簿」みたいに映像化される日も近いかもしれない。

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