
バレンタインが近づくと、なぜか少しだけ落ち着かない40代の方へ。
一人でも平気なはずなのに、心が勝手に反応する日。
笑って共感して、ちょっとだけ明日が軽くなる物語です。
二月に入ると、街は急に甘い空気をまとい始める。
コンビニの棚がピンク色になった瞬間、私は毎年同じセリフを心の中で言う。
ああ、今年もバレンタインが来たな。
四十代で一人で独身。
このスペック、ゲームなら「自由度:高」「イベント:少なめ」「回復アイテム:自分で買う」と表示されるタイプだ。
普段は困らない。
むしろ静かで快適だ。
ただしバレンタインだけは、年に一度のアップデートが入る。
会社に行くと、女性陣が妙に団結している。
「今年は義理やめました」と言いながら、机の引き出しの奥でカサカサ音がする。
やめたのに、なぜ音がするのか。
人間の発言は、だいたい音でバレる。
私はそれを見て、健康診断前日のような顔になる。
もらえなくてもいい。
でもゼロだと、なぜか社会からログアウトした気分になる。
不思議だ。
自分の人生にログインしてるのに、周辺機器が反応しない感じ。
昼休み、後輩の佐々木が聞いてきた。
「三宅さんって、恋愛とかもう興味ないんですか?」
四十代独身男性界では、これは定期テストに出る。
しかも答え方で印象点が変わる。
「ないよ」と言うと悟った感が出るが、少し痛々しい。
「あるよ」と言うと見栄っ張りに見える。
私は悩んだ末、最適解を出した。
「あるよ。通知くらいには。」
佐々木は笑い、私は救われた。
恋愛とは、盛大に始まる花火ではなく、通知音の小さなバイブかもしれない。
帰り道、スーパーに寄る。
チョコ売り場の前に立つ。
カップル向け。
友達向け。
自分へのご褒美向け。
当然だが「40代一人独身男性向け」はない。
私は棚を眺めながら、恋愛を思う。
若い頃の恋愛は、イベントだった。
好きになって、告白して、成功か失敗かで世界が変わる。
でも今は違う。
恋愛は、生活の中に混ざる調味料みたいなものだ。
ちょっと入ると嬉しい。
入らなくても食べられる。
たまに入れすぎると胃もたれする。
理想は「ちょうどいい」。
そんなことを考えながら、私は少し高めのチョコを手に取った。
自分用だ。
レジで店員さんがにこやかに聞いた。
「プレゼント用ですか?」
私は一瞬考えた。
この質問、人生に対する優しさが過ぎる。
私は答えた。
「未来の自分用です。」
店員さんは「素敵ですね」と言った。
その瞬間、私は理解した。
四十代一人独身男性の恋愛は、まず自分に優しくするところから始まるのだと。
いきなり誰かを幸せにする前に、自分の機嫌を取り戻す。
これが大人の段取りだ。
家に帰り、チョコを一粒食べる。
普通においしい。
普通に幸せだ。
私は勢いでSNSを開き、投稿した。
「バレンタイン、40代一人独身、チョコは自分で買う派です。誰かに渡す予定は胃袋だけ。」
数分後、通知が増えた。
「分かる」。
「それが一番」。
「今年は私も自分に買いました」。
共感が並ぶ。
私は少し驚く。
一人って、負けじゃないのかもしれない。
恋愛って、誰かに選ばれることだけじゃないのかもしれない。
むしろ選ばれ待ちを卒業して、自分で人生を動かす感じがする。
そんなとき、また佐々木から社内チャットが来た。
「三宅さん、バズってますよ。あと…元カノから連絡来ません?」
来ない。
来ないから今がある。
しかし私は思った。
元恋人から連絡が来る確率なんて、正直どうでもいいと思っていたのに、なぜか話題になると気になってしまい、帰りの電車でつい検索してしまった結果、バレンタインに元恋人から連絡が来る確率論を読みながら、みんな表では平気な顔をしているだけで、同じように過去と現在の境界線を確認したがっているのかもしれないと妙に納得してしまった。
バレンタインは気持ちの問題だけじゃなく現物も必要になる日だと改めて思いながら、チョコをどうするか悩んだ私は「今からでも間に合うのか」と現実的な検索をしてしまい、その流れで見つけたバレンタインのチョコを即日発送してくれる通販を見つけて心が落ち着いたを読んで、恋愛の感情を落ち着かせるのは時に言葉より配送スピードなのかもしれないと少し笑ってしまった。
夜、私はソファに沈みながら、恋愛について考える。
若い頃は「運命」を探していた。
今は「無理しない相性」を探している。
一緒にいて疲れない。
沈黙が気まずくない。
食の好みが大揉めしない。
冷暖房の設定で戦わない。
そういう静かな一致が、四十代には尊い。
でもここで問題が起きる。
四十代一人独身男性は、すでに生活が整いすぎている。
自由が快適すぎて、恋愛の入り口が見当たらない。
玄関マットがふかふか過ぎて、誰も靴を脱ぐ勇気が出ない。
これが「整いの罠」だ。
私はそこで、ひとつの結論に到達する。
恋愛は、人生を完成させる最後のピースじゃない。
人生が未完成でも、途中でも、入り込んできていいものだ。
むしろ未完成なまま笑っている人の方が、近づきやすい。
だから私は、完璧に見せるのをやめる。
一人でバレンタインを過ごすのも、普通に言う。
自分にチョコを買ったのも、普通に言う。
その上で、もし誰かと出会えたら、ちょっと嬉しい。
出会えなくても、私はチョコをもう一粒食べる。
それだけで、今日は十分に勝っている。
翌朝、佐々木が出社してきて言った。
「三宅さん、コメント欄で人生相談みたいになってますよ。」
私は答えた。
「恋愛は、時々コメディにしてやると軽くなる。」
佐々木は笑った。
私も笑った。
バレンタインに思う。
四十代一人独身男性が考える恋愛は、たぶんこんな感じだ。
大げさじゃなくていい。
焦らなくていい。
笑える余白があるほうが、長持ちする。
そして何より、自分を雑に扱わないこと。
それができたら、恋愛はいつでも始め直せる。
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