元カレマグカップが恋を呼ぶ
東京・中野の商店街のはずれに、ちょっと変わった店がある。
店の名前は「恋の再利用センター」。
「元カレにもらったもの、捨てるには惜しいけど、残すのもツラい」
そんな人たちのために、思い出の品を“再利用”する店だ。
店主の結衣（ゆい）は、30歳。
元・デザイナーで、2年前に失恋したのをきっかけにこの店を始めた。
「いらっしゃいませー！今日はどんな恋をリサイクルしますか？」
明るい声で迎えながら、彼女は毎回、心の中で小さく笑う。
この台詞を最初に思いついたとき、「私、やっと立ち直った」と思えたのだ。
客の9割は女性。
でもたまに、男性客もやってくる。
その日、店に現れたのは、どこか人懐っこい笑みを浮かべた青年だった。
「これ、引き取ってもらえますか？」
差し出したのは、白いマグカップ。底に小さく「For Y」と刻まれている。
「“Y”って、あなたの名前ですか？」
「いえ、元カノのイニシャルです。結衣って言うんです」
結衣は思わず目を丸くした。
「えっ、奇遇ですね。私も結衣なんです」
「そうなんですか。あ、でも俺の元カノはすごくドジで、すぐ怒るタイプでした」
「……なんか、似てますね」
二人はしばらく笑い合った。
マグカップは、再利用センターの棚に飾られた。
「恋愛グッズ・食器コーナー」の隣に並ぶと、どこか居心地がよさそうに見える。
結衣の店では、品物を“次の持ち主”に譲る代わりに、その品がもつ“恋のエピソード”を手紙に添えて渡すのがルールだ。
「このマグでコーヒーを飲むと、優しくなれる気がする」
「朝の一杯が、少しだけ特別になる」
そんな言葉を添えれば、それはもう単なる中古品ではなく、“恋の再生品”になる。
数日後、そのマグカップに興味を示した女性が現れた。
会社員の沙羅（さら）さん。
「なんか、このカップ、呼ばれた気がして…」
結衣は笑って言った。
「前の持ち主は優しい方でしたよ。恋は終わっても、思い出は温かいんです」
沙羅は少しだけ迷って、マグを抱きしめるように持った。
「じゃあ、これ、いただきます」
支払いを終えて帰るとき、彼女は嬉しそうに言った。
「明日の朝、これでコーヒーを飲んで、いい一日を始めます」
その夜、結衣はSNSに投稿した。
☕️今日も“恋のリサイクル”が1件完了しました。
捨てられない想いも、誰かの朝を明るくできる。
投稿を見た青年――カップの元持ち主・悠人（ゆうと）は、なぜか胸が温かくなった。
あの結衣という店主の声が、ふと脳裏に蘇る。
「恋のリサイクル、って言葉、いいですね」
「そうでしょ？未練も想い出も、ちゃんと再利用できるんです」
彼は別の記事で読んだ**『猫カメラ日記にゃんとも映える青春物語』**のように、思い出を“映し直す”ことの大切さを思い出していた。
数週間後。
再び、悠人が店に現れた。
「これ、受け取ってもらえますか？」
今度は、小さなぬいぐるみ。
「またリサイクルですか？」
「はい。前の彼女に“守ってくれる”ってもらったんですけど、ちょっと重たくて」
「守るのも疲れる時ありますもんね」
「……ほんと、それです」
二人はまた笑い合った。
そんな穏やかな時間の中、結衣はふと**『ネコノマド が行く爆笑カフェ珍道中』**を思い出した。
あの物語の猫のように、自分も自由に“気持ち”を運ぶ存在になりたいと感じたのだ。
その後、彼は何度か店を訪れるようになった。
理由は「不要品の持ち込み」――でも、明らかに会話が目的だった。
「結衣さん、リサイクルって、結局“再挑戦”ってことなんですよね」
「どういう意味です？」
「恋もモノも、もう一回信じてみるっていうか。そういう気がして」
結衣は心の奥が少し震えた。
かつて、自分が恋に破れたとき、信じることをやめた。
でも、彼の言葉が小さく灯をともした。
春。
店の入り口に、白い看板が立った。
「恋の再利用センター ✿“恋、再始動キャンペーン”開催中✿」
SNSで話題になり、たくさんの人が訪れるようになった。
「恋のリサイクル」が、次第に“再スタート”の象徴になっていく。
ある日、沙羅がまた店に現れた。
「このマグカップのおかげで、恋人ができたんです！」
嬉しそうに報告する彼女を見て、結衣も笑顔になった。
その瞬間、店のドアが開き、悠人が顔を出した。
「おめでとうございます」
「え、悠人さん？」
沙羅が驚く。
「僕、このマグの前の持ち主なんです」
「えっ！？……じゃあ、もしかして……！」
三人は顔を見合わせ、笑った。
店が閉まった後、結衣は静かな店内でコーヒーを淹れた。
棚にはもう、新しい恋の品がいくつも並んでいる。
「リサイクルって、不思議だね」
「恋も、こうやって回ってくのかも」
ふと彼女は、**『猫の副業 うちの猫、月収10万らしい！？』**の記事を思い出し、笑ってしまった。
恋も仕事も、副業みたいに柔軟でいいのかもしれない。
後ろから聞こえたのは悠人の声だった。
「俺の恋も、再利用できるかな」
「え？」
「いや、つまり……もう一回、誰かを信じたいって思って」
結衣は笑った。
「いいですよ。リサイクル料金は無料です」
二人の笑い声が、夜の商店街に溶けていった。
帰り道、結衣はふとスマホを開き、別の記事**『お花見！AIが考えた小説 – 監視されてる気がする🌸』**を読みながら、「春って、やっぱり新しい恋の季節だな」とつぶやいた。
それから、思わず微笑みながらSNSに投稿する。
🌸恋も桜も、散ってもまた咲く。
今日も、ひとつの恋が再利用されました。
そして最後に、店の看板を見上げてつぶやく。
「明日もまた、誰かの想いをリサイクルしよう」
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