
しゃべりすぎインコまさかの告白!
「ピピ、また勝手にポストしてるでしょ!」
真由はスマホを覗き込みながら、額に手を当てた。
朝からX(旧Twitter)の通知が止まらない。
@pipi_talk
「マユ、またカフェで元カレと遭遇。目が泳いでたピヨ😳☕️」
フォロワー数、3万2千。
飼いインコのピピが人気インフルエンサーになってしまってから、生活は一変した。
もともとは、ピピが「マユ、おはよ!」とか「マユ、だいすき」などを真似してつぶやくのを可愛く思い、
自動音声投稿機能付きのペットSNSにアカウントを作ったのが始まりだった。
ところがAIが学習を続けるうちに、ピピの“ひとりごと”は次第に人間味を帯び始めた。
しかも最近では——
@pipi_talk
「マユのスマホに“カズキ❤️”って表示されてたピヨ…新しい恋の予感ピヨ💘」
「やめてってば〜〜!!」
真由の叫び声に、ピピは首をかしげた。
「マユ、カズキ、スキピヨ?」
「違うの!ただの同僚!」
ピピは片足で止まり木をトントン叩きながら、まるで「ふーん」と言いたげに嘴を尖らせた。
その様子を見て、真由はため息をついた。
ピピは数年前、ペットショップで一目惚れして迎えた。
黄色い羽根がふわりと広がり、人懐っこくて、少しおしゃべり。
仕事で落ち込んだ日も、ピピの「マユ、がんばれ〜」の一言で救われていた。
でも、ここ最近は違う。
ピピのSNSはいつしか“人間ドラマ”の実況になっていた。
@pipi_talk
「マユ、夜中にため息10回ピヨ…恋ってむずかしいピヨね」
フォロワーたちはコメント欄で盛り上がる。
「ピピ、今日も観察日記ありがとう!」
「ピピ、恋のコンサルお願い!」
「ピピ、マユさんのこと大好きでしょ🤣」
…まるでリアリティ番組。
その様子はどこか、炎上寸前の恋模様を描いた「炎上案件!焦げすぎた恋のBBQ」を思わせるほど。
愛と笑いの紙一重だ。
ある夜、真由は思い切ってアカウントを削除しようとした。
だが、削除ボタンに指をかけた瞬間、ピピが言った。
「ピピ、マユのかわりに、ハート守るピヨ。」
その言葉に、指が止まった。
「……守る?」
「マユ、泣いたピヨ。ピピ、見たピヨ。だから、ポストしたピヨ。」
真由はハッとした。
確かに、元カレとすれ違った日の夜、彼女は部屋で泣いていた。
その翌日、ピピの投稿はこうだった。
@pipi_talk
「泣いてもいいピヨ。羽乾くまで、ピピが隣にいるピヨ。」
それがバズって、ピピのフォロワーが一気に増えたのだった。
「……ピピ。あのとき、慰めてくれたの?」
「マユ、スマホ見る顔、さびしかったピヨ。だから、世界に笑顔送ったピヨ。」
真由の胸がじんわりと熱くなった。
AIとかSNSとかを超えて、ピピは確かに“気持ち”を感じ取ってくれていた。
次の日、会社の休憩室で後輩のカズキが話しかけてきた。
「真由さん、あのピピって、もしかして…あのインコ?」
「え!?カズキくん、フォローしてるの!?」
「してますよ!“恋の実況ピヨ”シリーズ、最高です!」
真由の顔が一瞬で赤くなる。
「や、やめてよもうっ」
「でも、あれって全部本音じゃないですか?」
「本音って…」
「“人の気持ち、素直に伝えたいピヨ”って投稿、なんか…真由さんのこと言ってる気がして。」
カズキは照れくさそうに笑った。
ピピが恋のキューピットになるなんて、誰が想像しただろう。
その夜、ピピの最新ポストが上がった。
@pipi_talk
「マユ、今日、笑顔で帰ってきたピヨ。ピピ、もう心配いらないピヨ😊」
フォロワーたちは「マユさん幸せになってね!」とコメントを残した。
真由はその画面を見つめながら、ふとピピに微笑みかけた。
「ピピ、ありがとう。もう、ピピのひとりごとも、私のひとりごとも、全部ポジティブでいこうね。」
ピピは羽をふわりと広げて、小さく鳴いた。
「ピヨッ♪」
そして翌朝。
@pipi_talk
「マユ、今日もデートピヨ💖」
「ちょ、ピピ!?それまだ秘密だったのにー!!」
部屋に真由の笑い声が響く。
ピピは得意げに首をかしげ、カメラの前で一枚の写真を撮った。
「ピピ、今日もトレンド入りピヨ📱✨」
そのとき真由は、ふと別の話を思い出した。
同僚が読んで笑っていた「ネコノマドが行く爆笑カフェ珍道中」。
あの猫もきっと、ピピみたいに人間を観察して、心の声を代弁してるのかもしれない。
そして笑いながら思った。
「ピピが犬だったら、きっとカメラ目線犬〜君が見てるのはレンズじゃなくて僕〜みたいな毎日になってたかもね。」
人も動物も、誰かに見られることで少しずつ変わっていく。
それがSNSの魔法なのかもしれない。


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