
にゃんこが恋のキューピッド
健太は大学二年生。
いつも遅刻ギリギリで大学に駆け込む、要領の悪いタイプだ。
そんな彼の生活を支えているのは、白猫の「シロ」だった。
「おーい、シロ。今日もよろしく頼むぞ」
朝、トーストをかじりながら、彼はシロの頭を撫でた。
シロは気まぐれに「にゃあ」と鳴くと、すぐに窓から外へ飛び出していく。
健太はペットショップのアウトレットコーナーで、偶然「猫用小型カメラ」を手に入れていた。
首輪につけるだけで、猫の視点が録画できるという代物だ。
「せっかくだし、お前の一日を撮ってみようぜ」
そう言ってカメラを装着した瞬間から、健太とシロの奇妙な物語が始まった。
放課後。健太はパソコンを開き、シロの一日を再生していた。
「さてさて、どんな冒険をしてるのかな」
映像の中でシロは、路地裏を堂々と歩いていた。野良猫たちと鼻を突き合わせ、まるで秘密の会議をしているように見える。
「え、これ……猫界のサミット?」
しかし、次の瞬間。魚屋の店主が包丁を振るい、魚の切れ端を投げてくれた。猫たちは一斉に群がる。
「なんだよ、ただのサバイバルじゃねーか」
健太は吹き出した。だが映像はさらに意外な展開を見せる。
シロは路地を抜け、知らないマンションのベランダに軽やかに飛び乗った。その先にいたのは、健太が密かに想いを寄せるクラスメイト・彩花だった。
「ちょっ……おい、シロ!なんで彩花の家に!」
心臓が跳ね上がる。映像の中で、彩花はシロを優しく抱き上げている。
「また来てくれたの?かわいいねぇ」
健太は頭を抱えた。
「お前……俺より先に距離縮めてんじゃねーか……」
嫉妬とも羨望とも言えない感情が胸を占めた。シロはただ尻尾を揺らしていただけなのに。
翌日、健太は大学で彩花を見かけた。勇気を振り絞って声をかける。
「あのさ……昨日、シロが……」
「あ、白い猫くん?よく遊びに来てくれるんだ。もしかして、健太くんの?」
「え、うん。そうなんだ」
彩花はにっこり笑った。その笑顔に健太の心は一気に沸騰する。
「じゃあ今度、シロと一緒に遊びに来てよ」
「え?俺も?」
「うん。飼い主さんとも仲良くなりたいし」
健太は内心ガッツポーズを決めた。シロのおかげで一気に距離が縮まったのだ。
その日から、シロのカメラ映像は健太と彩花の関係を結びつける架け橋になった。
映像には、二人が一緒に猫を追いかけたり、笑い合ったりする姿が少しずつ増えていった。
ある日、映像の中に意外なシーンがあった。シロが彩花の部屋の机に飛び乗ると、そこには健太の似顔絵が置かれていたのだ。
「えっ……これ、俺?」
照れながら健太は彩花に尋ねた。
「うん……シロが連れてきたみたいに、健太くんも来てくれたらいいなって思って……」
健太の胸は一気に熱くなった。
「じゃあ……これからも一緒にいていい?」
彩花はうつむきながらも笑顔を見せた。
「もちろん。シロも喜ぶよ」
それから数週間後。健太の部屋には彩花が遊びに来るのが当たり前になった。シロはいつも二人の間で堂々と寝転がり、まるで「にゃんこキューピッド」のように二人を見守っていた。
健太はふと、カメラに向かってつぶやいた。
「ありがとう、シロ。お前がいなかったら、俺はずっと一人で悶々としてたよ」
シロは「にゃあ」と鳴き、尻尾をゆらりと揺らした。
そして健太は、シロのカメラを回しながら彩花に向き直った。
「これからも、三人で記録を残していこうな」
彩花は笑ってうなずき、シロはその場でゴロンと寝転がった。
にゃんとも言えない温かい時間が、これからも続いていくのだった。
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