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エア・ペット散歩で犬も歩けば棒に当たる

見えない犬と団地の夏

「……それでは本日の案件について、進捗を——」

パソコン画面に映る上司の声が重く響くその瞬間。
「ワンッ!」
突如として響き渡る愛犬の元気な鳴き声。
カメラが揺れ、主人公・涼太の愛犬ポチが画面に乱入した。

「おお!?」「可愛い〜!」
会議の緊張が一気に和らぎ、チームメンバーたちの笑い声が広がる。
涼太は顔を赤くしながら謝った。
「すみません、うちのポチが……」
だが上司まで笑みを浮かべて言った。
「いや、むしろ癒された。次からは“アイスブレイク担当”として出てもらうか?」

こうして始まった“ペット同伴リモート会議”。
最初は冗談だったが、次第にメンバーたちが自らのペットを披露し始めた。
白い猫を抱えたデザイナーの麻衣、ハムスターの回し車を見せる営業の田中、さらにはインコを肩に乗せた経理の吉田まで。

会議は毎回ペットの登場で笑いが絶えなくなり、以前よりも雰囲気が柔らかくなっていった。
「今日のポチくんは何を話したいんだろうね?」
「うちの猫はカメラ目線ばっちりです!」
雑談から始まる会議は、逆に本題への集中力を高め、仕事の効率も上がるという不思議な結果を生んだ。

——しかし物語はここで終わらない。

ある日、ポチが会議中に“決定的な動き”を見せたのだ。
涼太が説明していた資料を画面共有しようとした瞬間、ポチがキーボードに飛び乗った。
「ガシャッ!」
画面には奇妙な文字列が並び、予定外のスライドが映し出される。
それは涼太が個人的に作っていた“新規サービス案”だった。
「えっ……」
慌てる涼太。だが同僚たちは口々に言った。
「これ面白いじゃん!」
「実現できそうだよ!」

なんと、ポチが勝手に押したキーのおかげで、まだ誰にも見せていなかった企画が披露され、しかも高評価を得てしまったのだ。
「……ポチ、お前がプレゼンしてくれたのか?」
涼太は思わず笑い、ポチの頭をなでた。

それからチームでは「ペットが主役」のユニークな会議スタイルが定着。
企画会議では猫が机を歩き回り、報告会ではインコが「おはよう!」と発言に割り込み、まるで動物たちもメンバーの一員になったようだった。

やがて社内で噂が広がり、他部署からも「うちの犬も参加させたい」「猫も出勤OKですか?」と問い合わせが相次ぐ。
ついには会社全体で「ペットリモート会議」を取り入れることが決定された。

そして数か月後。
会社の広報部が配信した動画「ペットが繋ぐ働き方」はSNSでバズり、数百万回再生を記録する。
コメント欄は「うちの子も出たい!」「ペット枠作って!」と盛り上がり、会社のイメージアップにもつながった。

涼太は思う。
——あの日、ポチが乱入してくれなければ、こんな未来は訪れなかった。
「お前は本当に“ワンだふる社員”だよ」

ポチは尻尾を振り、再びカメラに向かって「ワンッ!」と吠えた。


追加エピソード

翌週、会社では「ペット交流タイム」なる制度まで生まれた。
毎週金曜の午後15時、30分だけ社員が自分のペットを紹介し合う時間。

「こちらが私の猫のモカです!」
「今日はハムスターのジョージが新しい回し車を披露します!」

涼太ももちろんポチを抱いて登場する。
だがこの交流会には、ペットを飼っていない社員も参加していた。
彼らは「うちにはペットいないけど、この時間は癒される」と言いながら、まるで動物園に来た子どものように画面越しに目を輝かせていた。

その中の一人、同僚の結衣がぽつりと呟いた。
「私も犬を飼いたくなってきたなぁ……でもマンションがペット禁止で」
それを聞いた涼太はふと思いつく。
「じゃあ、ポチを“シェアペット”にする?」

笑いながらの一言だったが、それがまた新しい文化の火種となる。
結衣は休日に涼太の家へ遊びに行き、ポチと一緒に散歩をするようになった。
ポチは尻尾をぶんぶん振って喜び、結衣も自然と笑顔を見せる。

その様子を見て、涼太の心にほんのりとした温かさが広がった。
ポチのおかげで仕事も人生も、そして恋愛までも動き出しているような気がした。

——ペットはただの家族じゃない。
時には“人生のキューピッド”になるのかもしれない。

涼太はそう感じながら、次の会議に備えてポチを抱きしめた。

「なあポチ、次は誰の心を動かすんだろうな?」
「ワン!」

カメラ越しに見つめ返すポチの瞳は、どこか自信に満ちていた。

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