
炭になった初デート🍖
「やっべ……焼きすぎた……」
雄大(ゆうだい)は顔をしかめながら、トングの先で真っ黒こげになったステーキを持ち上げた。
それはもはや“ミディアムレア”などという次元を超えて、“墨”であった。
「え、それ……黒すぎない?」「わざと?」「食べ物に謝って……」
女性たちの視線が冷たく突き刺さる。
──まさに炎上案件である。
今日のバーベキューは、大学時代の友人グループが久々に集まる夏のイベントだった。
中でも雄大は、ひそかに思いを寄せていた優菜(ゆうな)に告白するチャンスと意気込んでいた。
「料理できる男子って、やっぱりポイント高いよね~」
そんな優菜の言葉を思い出し、彼は前の晩からYouTubeで“プロが教える完璧ステーキ”をひたすら視聴していたのだ。
──だが、現実は非情だった。
「もう一本、焼いていい?」「私がやるね」
女性陣がどんどん焼き台に集まり、トングを奪うように交代していく。
雄大の手元には、炭になった肉と、失われた自信だけが残った。
「……雄大ってさ、失敗したとき、顔に出すぎ」
優菜がクスッと笑った。
「いや……一応、これでも今日のために練習してきたんだ」
雄大は苦笑しながら、真っ黒な肉を見つめる。
「うん、でも……その表情、嫌いじゃないよ」
そう言って、優菜は缶ジュースを差し出した。
「これ、焼き直す間に冷やしておいて」
笑顔には、不思議と優しさがあった。
その後、バーベキューは女性陣の活躍で美味しい料理が並び、雄大はというと、せっせとゴミ集めと飲み物の配達係に徹していた。
──そして帰り際。
「来週、またみんなで集まるって。リベンジする?」
優菜が、ポンと肩をたたく。
「もちろん。次は“ミディアム炭”じゃなくて、ちゃんと“レア”にしてみせる」
そう言って彼は笑い、優菜も「期待しとく」と答えた。
焦げても、失敗しても。
想いは、ちゃんと届いていたのかもしれない。
──そして翌週、雄大はついに完璧なステーキを焼き上げる。
優菜がそれを一口頬張り、にっこりと微笑んだ瞬間──誰よりも雄大の表情が赤く染まった。
それは、夏の太陽にも負けない、炭ではない本物の“炎”だった。
炎上案件。
それは、炭化した肉の中に残った、恋の火種だったのかもしれない。
コメント