
小さな退職劇🐿️
「ねぇパパ、リスがスーツ着てるよ⁉️」
朝のオフィス街で、小学一年生のリオが叫んだ。
母親の手を引きながら指さした先には、段ボールを抱えた小さなスーツ姿のリスがいた。
リスはしょんぼりした顔で、大きなビルの前に立っていた。
箱の中には、小さな観葉植物、数本のペン、「夢」と書かれたメモ帳、そして「総務部からのお知らせ」の紙。
そう、どうやら――退職したらしい。
リオは思わず駆け寄った。
「どうしたの? どこ行くの?」
リスは優しく微笑んだ。
「ちびっ子リス、会社を出るところです」
「やめちゃったの?」
「はい。もっと大きな夢を追いかけようと思いまして」
リオは首をかしげた。
「夢ってなに?」
リスは段ボールの中から黄色い付箋を取り出した。
そこにはこう書かれていた。
『世界中の落ち葉をアートに変える』
「落ち葉って、誰にも拾われずに踏まれて終わっちゃうでしょ?」
「でも、僕には見えるんです。風に舞う姿が、踊ってるように見えるんです🍂」
リオはその話に目を輝かせた。
「リスさん、ぼくの図工の宿題手伝って!」
その日から、ちびっ子リスとリオの“落ち葉アート”の日々が始まった。
リスの手にかかれば、ただの葉っぱが飛行機になり、恐竜になり、宇宙ロケットにだってなる。
落ち葉に表情を描き、木の枝で翼を作り、どんぐりでアクセントを加える。
リスは芸術家のように目を細め、葉のかすかな破れさえも「味わい」と言った。
やがて噂は広まり、地域の図書館に展示され、テレビにも取り上げられた。
「元サラリーマンリス、夢を叶える🍁」
そんな見出しが週刊誌に載った日、リスは照れくさそうに言った。
「会社を辞めてよかったかどうかは、まだ分かりません。
でも、あの日の“ちびっ子”との出会いが、背中を押してくれたんです」
リオは笑ってこう返した。
「押したのは僕じゃなくて、風だよ」
リスはニッコリ笑った。
「そうですね。あの日の風が、ずっと吹いてる気がします」
帰り道、リオは落ち葉をひとつ拾って、ポケットにしまった。
その葉っぱは、今でも彼の机の上で、まるで何かを語りかけるようにそっと置かれている。
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