
脳内は肉球でいっぱい
「今日こそ終わらないかも……」
オフィスの空気は、朝からピリピリしていた。
営業の佐々木、経理の渡辺、人事の西村、総務の小林、そして新入りの高田。
どのデスクにも山積みの書類、鳴りやまない電話📞、止まらないチャット通知、そして紙詰まりしたプリンター。
「猫の手も借りたいよな……」
思わずつぶやいた高田の頭上に、ふわりと浮かぶ思考バブル。
そこには、もふっとした猫の手🐾。
驚くことに、その瞬間、オフィスの全員の頭にも、猫の手の幻影が浮かび上がった。
「見えた?今、猫の手」
「うん。ピンクの肉球、リアルすぎた」
「私のはキジトラだったよ」
疲労のせいか、幻覚か──
だが、確かに彼らの脳内には“猫の手”があった。
そのとき、ゆっくりと現れたのが、会社のマスコット“タマ”🐱。
社長の愛猫で、普段は応接室のゲージでぬくぬく暮らしているはずなのに、なぜかフロアに登場。
「……まさか、助けに来たのか?」
社員たちが固唾を飲んで見守る中、タマはキーボードの上にジャンプ。
エクセルを開き、なぜかセルA1に “にゃー” と打ち込み、静止。
「……仕事してねぇぇぇぇ!!😂」
ツッコミとともに爆笑がオフィスに広がる。
疲労で沈んでいた空気が一気に明るくなり、誰かが差し入れのドーナツ🍩を配りはじめた。
会議室では自然と“タマお疲れ会”が開かれ、全員の顔がほぐれていく。
「なんか、乗り切れそうな気がするな」
「猫の手、借りたようなもんだよね」
その夜も結局残業にはなったけれど、空気はいつもよりずっと軽かった。
みんなの心には、猫の手の幻と、あの“にゃー”があったから。
数日後──
社内掲示板に貼られた1枚の写真。
高田の頭上に5本の巨大な猫の手が重なり、まるで圧死しそうなコラ画像。
「これAIで作ったの?」
「いや、あれはリアルだったよ」
その画像には、社員全員がコメントを書き込んでいた。
“忙しいときほど、笑いは大事”
“猫の手、毎日借りたい”
“てかタマ、退勤時間守ってるの草”🐾
そして、社内のスローガンが変更された。
「タマにできない仕事は、みんなでやろう」
タマは今日も、総務の椅子で昼寝している。
その姿に癒されながら、社員たちはまた忙しさと戦っている。
――猫の手の幻を、そっと思い出しながら。
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