棚の高さは役職次第
「この件は、いったん棚上げで」
会議室に響いたその一言に、若手社員の斎藤は顔をしかめた。
目の前には“給与見直し”と大きく書かれた書類。
それを、課長がさも当然のように壁の棚にポンと置いた瞬間、斎藤の胸に小さな怒りの火が灯った。🔥
「え、先週“最優先”って言ってませんでしたっけ…？」
ぼそっと言った声は、もちろん上司には届かない。
いや、届いているのに聞こえないフリか。
そもそも棚の高さが絶妙に“手が届かない”のが腹立たしい。
斎藤が天井近くの棚を見上げていると、隣で係長の田中が囁いた。
「君が出してた“在宅勤務の見直し案”も、先月その棚行きだったよ」
斎藤は思わず振り返る。
「え、それってまだ……？」
「うん。年を越すかもね🎍」
冗談にしてはリアルすぎて笑えない。
すると、部屋の隅で偉そうに腕を組んだ部長が口を開いた。
「棚上げとはな、優先順位を見極める能力の表れだよ」
「保留こそ、大人の判断なんだ」
それって「面倒なことは後回し」って意味では？
斎藤は内心ツッコミつつも、黙ってうなずく。
この職場では、正論より“空気”の方が強い。
そんな中、部長が続ける。
「我が社の昇進条件に“棚上げ力”を加えることにした」
「冷静に“保留”できる人間こそ信頼されるんだ」
まさかのスキル認定制度。
しかもその場で「棚上げスキル仮免証」が配られた。
《あなたの棚上げ力：Lv2（棚まであと30cm）》
《上げすぎ注意：見失う恐れあり》
書類を後回しにするほど評価されるって、何かがおかしい。
でも、逆らえないこの空気。
ふと見ると、棚の一番上には「婚姻届」と書かれた書類まであった。
「私のも、あそこか……」と係長が呟いたのを、斎藤は聞かなかったふりをした。
その後、会議が終わると、部屋の入り口にこんなポスターが貼られていた。
【重要：棚上げ中の案件一覧は、月末までに“棚卸し”してください🗂️】
斎藤は苦笑した。
「貼るだけ貼って、どうせ誰もやらないんだよな……」
今日も会議室には、上げられた議題と見上げる社員たちのため息がこだましている。
誰もが言えないまま、ただ願っていた。
「いつか、あの棚が思い切り崩れ落ちますように」と。
📄🤷♂️📦
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